図9-3 放射性廃棄物の処分までの流れ
図9-4 マイクロ波加熱装置 a)装置外観、b)容器断面
私たちは、研究施設から発生する低レベル放射性廃棄物のうちコンクリートなどの非金属雑固体廃棄物をプラズマ加熱により溶融処理して、ガラス状の化学的に安定な溶融固化体に成形してから廃棄体として埋設処分することを計画しています(図9-3)。溶融固化体を安全に処分するためには、機械的強度などの性能評価を行うと共に、固化体中に含まれる放射性核種の種類と量を把握する放射能評価が不可欠です。このために、原廃棄物や溶融固化体等から試料を採取し、放射化学分析によって核種組成・濃度・分布等の放射能データを収集する必要があります。これらのデータを用いて合理的で信頼性の高い廃棄体の放射能評価方法を確立し、処分に備えることになります。
放射化学分析においては、前処理として試料を溶液化する必要がありますが、ガラス状の物質である溶融固化体を溶液化する作業には長時間を要します。また、研究施設から発生する廃棄物の場合、処分安全評価のために考慮すべき核種の種類が多く、それらの濃度も様々であるため、放射化学分析のためには比較的多量の試料を溶液化する必要があります。一般的な化学成分分析と比較すると、10倍程度の試料を溶液化することが必要となります。
そこで、溶融固化体試料を効率的に溶液化するために、マイクロ波加熱を用いる迅速溶解法について検討しました。従来のホットプレートのみによる外部加熱法では、一容器あたり溶液化可能な溶融固化体試料は0.1 g程度でした。一方、マイクロ波加熱法では、図9-4に示すように、テフロン製の密閉型容器を用いて試料を加熱します。これにより、溶解の効率が向上し、一容器あたり1 gの溶融固化体試料を溶液化できるようになりました。また、密閉型の容器を使用することで、放射性物質の飛散を防止する効果が期待できます。溶解操作の安全性の観点からも、マイクロ波加熱法は有効な方法です。
従来法と比較してマイクロ波加熱を使用する方法では、溶解操作の所要時間は1/10以下に短縮され、溶融固化体試料に対する迅速溶解法を確立することができました。