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10 システム計算科学研究

計算科学手法による原子力研究
−原子力分野の難問を解決するための新しい研究手法確立を目指して−

図10-1 システム計算科学センターのミッション及び研究開発の方向性
拡大図(264KB)

図10-1 システム計算科学センターのミッション及び研究開発の方向性

運用・保守支援,計算科学基盤技術開発,先端的シミュレーション技術開発の三位一体の運営を行い、原子力研究開発を支援する一方、新たな研究開発のあり方も提案しています。

1980年代にスーパーコンピュータが現れると、原子力分野ではそれを真っ先に研究のツールとして使い始めました。原子力分野では予算や環境等の制約により実験が困難な場合も多く、計算機によるシミュレーションは、従来の研究手法に代わる画期的ツールになりうると考えられたからです。登場した当時、その計算能力は現在のパソコンよりも劣るものでしたが、その後の発達は目覚しく、現在では数千台以上のプロセッサーを並列で動作させ、極めて大規模な計算を行うことが可能になっています。現在、原子力機構のシステム計算科学センターでは、この大規模計算を効率良く実行するための計算環境を第一線の研究者に提供すべく、スーパーコンピュータを始めとしてその周辺機器及びネットワーク環境等の運用・保守支援を行っています。また、将来の原子力分野の計算科学研究を支えるため、拠点に分散した計算機を有効に活用するための並列分散基盤ソフトウエア等の計算科学基盤技術開発を行う一方、巨大な並列計算能力を背景にした新しい原子力シミュレーションを開拓する先端的シミュレーション技術開発研究も行っています。今後、研究開発体制を最新の計算科学技術により高度化し、革新的な原子力科学研究を進めるためには、これまでの経験から、こうした三位一体(運用・保守支援,計算科学基盤技術開発,先端的シミュレーション技術開発)の計算科学の推進をバランス良く行っていくことが重要です。図10-1は、こうした研究開発推進の方向性を模式的に示した図であり、これまでの研究開発によって原子力分野に強いインパクトを与えられるような成果が得られてきました。以下では、最近の代表的な成果について紹介いたします。

まず、計算科学基盤技術開発においては、日本のIT化政策の一環として行われたプロジェクトITBL(Information Technology Based Laboratory)計画に参画することにより、総計算機資源57TFLOPS(1TFLOPSは1秒間に1兆回の演算が行えることを意味します)を超える仮想研究環境を実現しました。現在は、この環境を活用し、原子力研究開発において重要課題である耐震強度やナノデバイスの開発、人体への放射線の影響などをターゲットとした研究を進めています。特に、耐震強度では、プラント全体を丸ごとシミュレーションすることを目標に三次元仮想振動台を試作し、部品数2,000点規模の問題で検証するまでに至っています。こうした研究が進展し、原子力プラントが仮想空間で自在に構築可能となれば、原子力施設の設計期間や費用が大幅に削減できる日が来るかもしれません。

次に、先端的シミュレーション技術開発研究の成果ですが、原子炉材料のシミュレーションにおいて、最近の計算能力の大幅な拡大によって、材料を原子レベルからシミュレーションし、その強度を解析できるまでに至っています。まだ扱える原子数は100個程度ですが、材料内で不純物原子等が集まることにより弱くなりやすい結晶粒界という部分に応力を加え、粒界が破断に至る過程の第一原理計算ができるようになりました。シミュレーションでは、粒界の原子組成を変え、何度でも解析して、どのような原子がどれだけ粒界に集まると、どれだけ脆くなるかを高精度に調べることができます。こうしたシミュレーションが更に発展すると、多くの労力と年月を要する実験研究が代替できるだけでなく、強固な材料を作るための物質設計がシミュレーションにより可能になると考えられます。

このように、私たちは原子力研究のあり方を大きく変えうる潜在力を持つ計算科学技術研究を、今後も一層加速させていきます。