図9-5 JRR-3改造に伴って発生したコンクリート中のトリチウム濃度測定の流れ
図9-6 コンクリート中のトリチウムの浸漬水への浸出
原子力施設の廃止措置では大量のコンクリート等の廃棄物が発生しますが、これらの中には放射能による汚染のない廃棄物や放射性物質として扱う必要のないレベル(クリアランスレベル)の廃棄物が含まれます。しかし、クリアランスレベルの廃棄物は放射能濃度がクリアランスレベル以下であることを確認(クリアランス検認)しない場合は放射性廃棄物として扱われます。そこで、放射性廃棄物発生量の低減や資源有効利用の観点から、整備されたクリアランス制度に基づいて合理的な対策をとることが望まれています。
運転履歴や解体時の放射能測定の結果から、クリアランスレベル以下であると推測される廃棄物として、原子力科学研究所にはJRR-3の改造工事に伴い発生したコンクリート等があります。特に、JRR-3は重水減速冷却型の原子炉であったため、重水の中性子捕獲により生成したトリチウムによる汚染の可能性が問題となるコンクリートが約4,000t存在します。このコンクリートのクリアランスには、トリチウム濃度がクリアランスレベル以下であることを確認する必要があります。
トリチウムは低エネルギーβ線放出核種であり、外部放射線測定ができないので、クリアランス検認では代表試料を分析して全体のトリチウム濃度を確認することになります。このため検認に必要な試料数が膨大な数になることから、一度に多数の試料を分析可能な水浸漬法(水に試料を漬け、試料中のトリチウムを浸漬水中へ浸出させる方法)により濃度測定を行うこととしました(図9-5)。また、トリチウムは試料の粉砕や調製により一部が飛散してしまうおそれがあるため、粉砕工程を省き、ある程度の大きさを持つ塊状試料を分析することにより、表面からのトリチウム損失をできるだけ小さくすることとしました。
今までに報告されている水浸漬法によるトリチウムの分析では、粉砕試料や数g程度の塊状試料が用いられていました。試料の形態や大きさが異なると、トリチウムの浸出挙動が異なります。そこで、約50gの模擬コンクリート試料を2種類(各5個)作製し、浸漬時間に対するトリチウムの浸出割合の変化を評価しました(図9-6)。
その結果、100mlの水に約30日浸漬することでコンクリート中の約95%のトリチウムが浸漬水中へ浸出することが分かりました。この浸漬時間と浸出割合を用いてJRR-3の解体コンクリートを水浸漬法で分析した結果は、高温でトリチウムをコンクリートから分離する加熱法により分析した結果と良く一致しました。この結果から、コンクリート中のクリアランスレベルのトリチウム濃度測定法として水浸漬法が有効であることを明らかにしました。また、浸漬水0.5mlを採取して20分間放射能測定を行った場合の検出限界値は約0.5Bq/gであり、トリチウムのクリアランスレベルを2桁以上下回ることも分かりました。このことから、水浸漬法によりJRR-3の解体コンクリートのクリアランス検認が十分行えることを示すことができました。