3-10 核融合装置の高温環境下でも使える樹脂製遮へい材料を実現

−高い耐熱性と強度を有する中性子遮へい樹脂材の開発−

図3-26 JT-60改修装置の断面図とポート周辺拡大図

図3-26 JT-60改修装置の断面図とポート周辺拡大図

ポート周辺部では限られた空間で放射線による超伝導コイルの発熱を低減しなければなりません(真空容器は高温プラズマを閉じ込める容器で、真空断熱容器は極低温の超伝導コイルを真空断熱するための容器です)。

 

図3-27 開発樹脂

図3-27 開発樹脂

中性子遮へい特性試験用の試験体で、大きさは縦40cm×横40cm×厚さ5cmです。

 

図3-28 中性子遮へい特性試験結果

図3-28 中性子遮へい特性試験結果

代表的な中性子遮へい樹脂材であるポリエチレンに匹敵する中性子遮へい特性を有しています。

 

図3-29 開発樹脂と従来の遮へい材の強度特性

図3-29 開発樹脂と従来の遮へい材の強度特性

開発樹脂は、室温,250℃の場合ともに、従来からあるポリエチレン,コンクリートの放射線遮へい材を上回る機械強度特性を有しています。(注 :250℃の場合、ポリエチレンはデータなし、コンクリートのデータは圧縮強度のみ)

超伝導コイルを新たに採用するJT-60改修装置では、重水素実験によってプラズマから発生する中性子の遮へいは主に二重壁構造内に水を充てんした真空容器で行います。しかし、ポート周辺部では真空容器のように二重壁構造にして水を充てんすることが困難なため、近接する超伝導コイルでの核発熱低減のためには、水に代わる放射線遮へい材料が必要となります(図3-26)。真空容器は250℃以上でベーキングを行うので、その遮へい材料には耐熱性が要求されます。また、プラズマ発生・消滅時には磁場変動により真空容器とその周辺構造物には大きな電磁力が働くため、遮へい材には機械強度(圧縮強度:50MPa以上)も要求されます。更に狭隘なポート周辺部に過大な荷重がかからないように軽量性が不可欠となります。こうした材料候補としてはコストが低く、成型が容易な樹脂系材料がありますが、多くの開発実績のあるホウ素添加ポリエチレンでは耐熱性,強度ともに要求を満足できませんでした。そこで私たちは樹脂系材料の見直しを行いました。樹脂母材の候補10種類を選定し、250℃の耐熱試験を実施して候補材料を4種類に絞りました。次に遮へい性能向上のためにホウ素を混練した試験体を製作し、JISに基づく機械強度試験を実施して、高温環境下でもコンクリートより高い強度を有するフェノール系樹脂を最終的に選択しました。開発樹脂(図3-27)の耐熱温度は荷重たわみ試験の結果、300℃となることを確認しました。図3-29に開発した樹脂とポリエチレン、コンクリートの室温と高温環境下(250℃)での機械強度試験結果を示します。開発樹脂は、室温,250℃ともに十分な機械強度を有していることが分かります。更にこの樹脂はコンクリートと比較して体積で1/2、重量で1/2〜1/3であり遮へい材料の軽量化が可能です。最後に、この樹脂に対し、252Cf中性子源による遮へい特性試験を実施し、この樹脂がポリエチレンに匹敵する遮へい特性を有することを確認しました(図3-28)。以上から、高温環境下でも使用できる高性能な中性子遮へい材料が実現できました。