3 核融合研究開発

核融合エネルギーの実用化に向けて

図3-1 核融合原型炉の開発
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図3-1 核融合原型炉の開発


原子力機構の核融合研究開発部門では、核融合エネルギーの実用化に向けて、ITER計画,炉心プラズマ研究,核融合工学研究という核融合開発の鍵となる三つの分野の研究開発を進めています。なお、ITER計画に加え、日欧共同の幅広い研究開発(幅広いアプローチ活動)などの国際協力を積極的に利用し、原型炉の実現を目指しています(図3-1)。

国際熱核融合実験炉(ITER)計画

ITER計画は、実験炉の建設・運転を通じて核融合エネルギーの科学的・技術的実現可能性を実証する国際協力プロジェクトで、日本,欧州,米国,ロシア,中国,韓国,インドの7極、世界人口の半数以上を占める国々が参加します。ITERはフランスのカダラッシュに建設することが予定されています。2006年11月には、パリにて参加7極によるITERの建設と運転に関する国際協定が締結されました。原子力機構はITER計画における我が国の極内機関となることが想定され、このITER計画に重要な役割を果たすことになります。

炉心プラズマ研究

ITER計画を支援するとともに原型炉に向けた炉心プラズマ性能の高性能化を目指すJT-60SA計画(JT-60の超伝導化改修)の検討が、幅広いアプローチ活動の一つとして日欧共同で開始されました。トピックス3-1の「日欧共同で実施するJT-60SAの概念設計を完成」は、この改修に関するものであり、JT-60の既存設備を最大限に活用するとともに、先進的な技術を採用することで、柔軟性に富んだ実験が期待できます。

さて、原型炉では経済性が高いこと、すなわち、コンパクトな炉心で高い核融合出力を維持できることが求められます。そのためにはプラズマ圧力(温度×密度)を高めなければなりません。トピックス3-2の「高圧力プラズマに必要なプラズマ回転速度を探る」は、JT-60を用いて、高いプラズマ圧力を安定に維持できることを実験的に示した世界初の成果です。また実験と並行して、理論研究でも大きな進展がありました。トピックス3-3の「尖らせて高いプラズマ圧力を実現」は、高いプラズマ圧力を実現するための理論的指針を明らかにしたものであり、トピックス3-4の「電子乱流熱輸送の抑制機構を解明」は、実験で発見された断熱層が惑星大気のジェットの形成と同じく自己組織化現象であることを電子乱流の第一原理シミュレーションにより解明したものです。今後、実験と理論の組合せにより、炉心プラズマ研究の大幅な進展が期待できます。

核融合工学研究

核融合エネルギーの燃料は、重水素とトリチウム(三重水素)です。重水素は海水中に大量に存在します。トリチウムは天然にはほとんど存在しませんが、海水中に大量に含まれるリチウムから生産することが可能です。核融合炉では、「ブランケット」という装置によって、核融合反応による中性子のエネルギーを受け止め、取り出すとともに、燃料のトリチウムを生産します。トピックス3-5, 3-6の「核融合炉の実規模第一壁の試作に成功」「溶接部の違いをヒントに照射硬化抑制手法を開発」は、原子力機構が開発してきた低放射化材料であるフェライト鋼(F82H)を用いたブランケットの製作方法の開発と中性子照射による硬化を抑制する方法に関する研究成果です。一方、トリチウムを効率よく生産するブランケットの開発には、増殖材料の開発とトリチウム生成率の正確な評価が必要です。トピックス3-7, 3-8の「ブランケット中のトリチウム生成率を高精度で測定」「核融合炉への安定した燃料供給を目指す材料」で得られた成果により、ブランケットのトリチウム増殖に関する研究が着実に進展しました。またトピックス3-9, 3-10の「核融合炉でのトリチウムと金属の相互作用の探求」「核融合装置の高温環境下でも使える樹脂製遮へい材料を実現」に示すように、ブランケット以外の材料開発も進んでいます。

 

このように、ITER計画を中心に、炉心プラズマから核融合工学研究開発を含む総合的な研究開発アプローチを行うことにより、21世紀中葉の核融合の実用化を目指します。