図3-13 テストブランケットの全体図及び試作した第一壁
図3-14 ベリリウムと低放射化フェライト鋼の接合界面
ブランケットは核融合炉のプラズマの周囲に配置される構造物で、発電のためにプラズマから熱を取り出すとともに、燃料となるトリチウムの生産を担う重要な機器です。ITER計画でもテスト用ブランケットを装着し、発電試験を行う予定です。ブランケットのプラズマに面する部分は「第一壁」と呼ばれ、プラズマから高い熱や中性子を受けます。金属材料は中性子等の高エネルギー粒子を受けると脆く壊れやすくなるので、大量の中性子を受ける第一壁には、低放射化フェライト鋼と呼ばれる脆くなりにくい材料を用いる予定です。また、これまでのプラズマ研究の結果から、この第一壁表面には、プラズマへの不純物混入の影響が少ないベリリウム等の軽い元素の材料で表面を覆うことが必要です。更に炉心プラズマに最も近い第一壁から熱を効率よく取り出すためには、第一壁に冷却配管を内蔵することが必要です(図3-13)。私たちは、このような要求を満たす第一壁の製作技術として、熱間等方圧加圧法(HIP)に着目し技術開発を進めてきました。
HIP法は、接合する部品を高圧で密着させ、高温に加熱することで接合界面を挟んで原子を行き来させる(拡散)ことで異なる材料を一体化する方法です。これまでの研究により、部品を密着させる際に部品が変形すること、高温で材料が変質し材料自身の強度が低下すること、異なる金属間の接合界面に金属間化合物と呼ばれる脆い領域が現れることなどの問題点が明らかとなってきました。
今回、部品の寸法精度を高めて部品隙間を減らし部品の変形を抑えました。また、接合を行った後に材料特性を調整する条件で加熱することで、接合の強度と材料自身の強度を両立させることに成功しました。更にITERの第一壁表面保護材として使用されるベリリウムと低放射化フェライト鋼の接合界面にクロム薄膜を挿入することで脆い領域の形成を抑制し、良好な表面保護材の接合を実現しました(図3-14)。
現在、第一壁の製作技術は、欧州,米国を始めとするITER計画参加各極で活発に研究開発が進められていますが、今回の成功により、我が国は他極を先行するとともに、核融合炉用第一壁の実現に大きく前進しました。