図3-15 照射後引張試験による、低放射化フェライト鋼溶接部強度の比較
図3-16 溶接部(TIG溶接部)、熱影響部及び母材部の照射前・照射後の微細組織
図3-17 TIG溶接材 熱影響部熱履歴を模擬した熱処理を施した、低放射化フェライト鋼熱処理材の照射硬化量の比較
核融合炉構造材料の第一候補材料である低放射化フェライト鋼の研究開発においては、比較的低温(350℃以下)で中性子照射を受けると、鋼が照射により硬化及び脆化することが課題となっています。核融合炉の健全性を保つためには、その挙動を理解し抑制することが重要な課題となっています。私たちが開発を進める低放射化フェライト鋼F82Hにおいて、今回、溶接部(TIG溶接部)の熱影響部(HAZ部:溶接による入熱の影響を受けているものの、溶けていない領域)の照射硬化量が、他に比べて小さいこと(図3-15)に着目し、その箇所の微細組織を解析しました。その結果、照射された溶接部のHAZ部のうち、未変態HAZ部において、照射硬化の要因の一つと考えられている転位ループ(照射により導入された欠陥が集まって、結果として転位の輪になったもの)が全く観察されないことを見いだしました(図3-16)。そこで溶接時にHAZ部が受けた熱履歴と同等の熱処理をF82H標準材に施し、中性子照射及び照射後引張試験を行ったところ、未変態HAZ部相当の熱処理を施した材料において照射硬化が抑制されることを発見しました(図3-17)。この試験結果は今後の低放射化フェライト鋼の熱処理の最適化に向け明確な指針を示すものです。
なお、本研究は、第三期,第四期日米協力「混合スペクトル核分裂炉による第一壁及びブランケット構造材料の日米協力試験」として、米国オークリッジ国立研究所との共同研究で実施されました。