3-4 電子乱流熱輸送の抑制機構を解明

−トカマクにおける微視的電子乱流のシミュレーション−

図3-10(上)電子乱流の計算手法 (右下)電子断熱層の第一原理シミュレーション (左下)電子乱流における自己組織化現象のシミュレーション
拡大図(336KB)

図3-10(上) 電子乱流の計算手法

磁力線方向メッシュを用いることにより、約100分の1のメッシュ数で微視的な電子乱流の第一原理シミュレーションを行うことに成功しました。

図3-11(右下) 電子断熱層の第一原理シミュレーション

(a)静電ポテンシャルの等高線図と(b)(θ,φ)方向のモード数(m,n)で特徴付けられる各共鳴モード成分の結合関係。断熱層領域では単一ピッチ成分(二次元的)の自己組織化現象によって熱輸送を妨げるθ方向の層状の流れが形成されますが、熱輸送領域では複数ピッチ成分(三次元的)の結合によって熱を輸送するr方向の流れが形成されます。

 

図3-12(左下) 電子乱流における自己組織化現象のシミュレーション

(c)〜 (e)に示す静電ポテンシャルの等高線図では、図3-11(a)の断熱層領域を模擬した単一ピッチの系においてランダムな乱流(c)を初期条件として電子乱流を緩和させると、過渡的状態(d)を経て(e)のような層状の流れの状態に落ち着いていきます。この形成機構は惑星大気における東西ジェット形成と同様の自己組織化現象です。

トカマクでは炉心から熱を散逸させる乱流現象を抑制して核融合反応に必要な高温状態を効率的に維持することが課題となっています。特に、ITERで実現される核燃焼プラズマでは、アルファ粒子による電子加熱が支配的になるため電子乱流熱輸送が重要な問題となります。これまで、乱流現象の評価及び予測を目的として、第一原理シミュレーションが開発され、イオン乱流(特徴的波長λ〜5mm)の研究が進展してきましたが、極めて微視的な電子乱流(λ〜0.1mm)を実装置規模で計算することは困難でした。これに対して本研究では、トカマクの乱流構造に適合したメッシュの開発(図3-10)によりこの困難を克服し、実装置規模での電子乱流の計算に成功しました。図3-11(a)の模様は、微視的な電子乱流のシミュレーションにより明らかとなった静電ポテンシャルの等高線です。静電ポテンシャルの等高線が並んだ方向に、大きな熱輸送が発生すると考えられます。最近の実験では断熱層と呼ばれる、乱流熱輸送が著しく抑制される領域が観測されています。同手法を用いて電子断熱層を解析した結果、断熱層では炉心からの熱の散逸を遮る方向(θ方向)に層状の流れが形成されること、また、この断熱層は将来の大型装置でも期待できることを発見しました。更に、断熱層領域の二次元的乱流の特性を調べたところ、この特性は惑星大気の二次元的乱流と類似しており、観測された層状の流れは惑星大気にみられる東西ジェットと同様の自己組織化現象によって形成されていることを明らかにしました(図3-12)。

本研究成果は、2007年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞しました。