3-3 尖らせて高いプラズマ圧力を実現

−プラズマ上部形状の尖鋭化による周辺部不安定性の抑制−

図3-7 エッジローカライズモードによる台座構造( ペデスタル)崩壊の模式図

図3-7 エッジローカライズモードによる台座構造( ペデスタル)崩壊の模式図

プラズマ表面近傍に現れるプラズマ圧力の台座構造(図中青線)は、圧力が高くなりすぎるとエッジローカライズモード(ELM)が発生し、プラズマの一部を吐き出し、なだらかで低い圧力分布(黒線)になってしまいます。

 

図3-8 異なる尖り具合を持つプラズマ断面形状

図3-8 異なる尖り具合を持つプラズマ断面形状

プラズマ断面上部の形状を尖らせることによりピーリング・バルーニング不安定性が抑制するかを数値解析しました(δupはプラズマ上部の尖り具合を表すパラメータで、大きいほど尖った形状を表します)。

 

図3-9 尖り具合を変えた場合のMHD安定領域

図3-9 尖り具合を変えた場合のMHD安定領域

圧力勾配と磁気シアで与えられるMHD安定領域。プラズマ上部形状が尖った場合の安定領域(赤い領域)は、丸まった場合の安定領域(青い領域)よりも広がり、プラズマ圧力勾配の最大値は約 30%向上しています(αmax=3.22(青)→4.38(赤))。

核融合炉の経済性を高めるためには高圧力のプラズマを安定に閉じ込めることが必須です。高圧力のプラズマを得るには、プラズマの表面付近に圧力の台座構造(ペデスタル、図3-7)が現れる高閉じ込め(Hモード)プラズマにすることが有力な方法であると考えられていますが、この高閉じ込めプラズマではペデスタル領域近傍でのプラズマ圧力が高くなりすぎるとエッジローカライズモード(ELM)と呼ばれる不安定性がプラズマ表面近傍においてしばしば発生します。このELMの発生によってペデスタルは崩壊し、閉じ込められていたプラズマの一部がプラズマ外部に放出されるため、ペデスタルでのプラズマ圧力勾配の最大値はELMによって制限されているといえます。そのため、このELMを安定化できる条件を明らかにすることは核融合プラズマ圧力を高めるための重要な課題となっています。

これまでに、ELMのなかでペデスタルを大きく崩壊させるType-IELMと呼ばれるものはピーリング・バルーニング不安定性と呼ばれる理想電磁流体(MHD)不安定性が原因であることが理論的・実験的に明らかにされ、この不安定性の安定化にはプラズマ断面形状を最適化(D型化:内側をまっすぐに、外側を丸くした形状)することが重要であることが示されてきました。しかしながら、このD型化によるプラズマ圧力の向上は実験装置によってその効果に大小があることから、D型化以外の形状効果の可能性が指摘されていました。

そこで、私たちはプラズマ上部形状の尖鋭化というD型化とは異なる形状安定化方法を提案するとともに、この尖鋭化によるピーリング・バルーニング不安定性の抑制について、プラズマ形状効果を正確に計算できるMHD安定性解析コードを開発し、それにより尖鋭化による抑制効果の数値解析を行いました。その結果、プラズマのD型度合いを表すパラメータである楕円度,三角度を変化させることなくプラズマ上部形状を尖鋭化することでピーリング・バルーニング不安定性が抑制でき、プラズマ圧力勾配の最大値が大きく改善されることを理論的に初めて明らかにしました(図3-8,図3-9)。また、この安定化は、形状の尖鋭化によりプラズマ上部の磁場構造が変化し、プラズマの中心からプラズマ表面に向かって磁場の向き(磁気シアと呼ばれる)が大きく変化することが原因であることが分かりました。

プラズマ上部形状がピーリング・バルーニング不安定性に影響を与えることは実験的にも確認されており、本研究はこの影響を理論的に明らかにしたものです。また今回の成果により、ITERやJT-60SAで想定されるプラズマ性能を更に高めることが期待できます。