図3-7 エッジローカライズモードによる台座構造( ペデスタル)崩壊の模式図
図3-8 異なる尖り具合を持つプラズマ断面形状
図3-9 尖り具合を変えた場合のMHD安定領域
核融合炉の経済性を高めるためには高圧力のプラズマを安定に閉じ込めることが必須です。高圧力のプラズマを得るには、プラズマの表面付近に圧力の台座構造(ペデスタル、図3-7)が現れる高閉じ込め(Hモード)プラズマにすることが有力な方法であると考えられていますが、この高閉じ込めプラズマではペデスタル領域近傍でのプラズマ圧力が高くなりすぎるとエッジローカライズモード(ELM)と呼ばれる不安定性がプラズマ表面近傍においてしばしば発生します。このELMの発生によってペデスタルは崩壊し、閉じ込められていたプラズマの一部がプラズマ外部に放出されるため、ペデスタルでのプラズマ圧力勾配の最大値はELMによって制限されているといえます。そのため、このELMを安定化できる条件を明らかにすることは核融合プラズマ圧力を高めるための重要な課題となっています。
これまでに、ELMのなかでペデスタルを大きく崩壊させるType-IELMと呼ばれるものはピーリング・バルーニング不安定性と呼ばれる理想電磁流体(MHD)不安定性が原因であることが理論的・実験的に明らかにされ、この不安定性の安定化にはプラズマ断面形状を最適化(D型化:内側をまっすぐに、外側を丸くした形状)することが重要であることが示されてきました。しかしながら、このD型化によるプラズマ圧力の向上は実験装置によってその効果に大小があることから、D型化以外の形状効果の可能性が指摘されていました。
そこで、私たちはプラズマ上部形状の尖鋭化というD型化とは異なる形状安定化方法を提案するとともに、この尖鋭化によるピーリング・バルーニング不安定性の抑制について、プラズマ形状効果を正確に計算できるMHD安定性解析コードを開発し、それにより尖鋭化による抑制効果の数値解析を行いました。その結果、プラズマのD型度合いを表すパラメータである楕円度,三角度を変化させることなくプラズマ上部形状を尖鋭化することでピーリング・バルーニング不安定性が抑制でき、プラズマ圧力勾配の最大値が大きく改善されることを理論的に初めて明らかにしました(図3-8,図3-9)。また、この安定化は、形状の尖鋭化によりプラズマ上部の磁場構造が変化し、プラズマの中心からプラズマ表面に向かって磁場の向き(磁気シアと呼ばれる)が大きく変化することが原因であることが分かりました。
プラズマ上部形状がピーリング・バルーニング不安定性に影響を与えることは実験的にも確認されており、本研究はこの影響を理論的に明らかにしたものです。また今回の成果により、ITERやJT-60SAで想定されるプラズマ性能を更に高めることが期待できます。