図3-20 酸化物添加Li2TiO3の焼結密度の酸化物添加量依存性
図3-21 酸化物添加Li2TiO3のH2雰囲気中における酸素欠損量
核融合炉は、重水素(D)とトリチウム(T)を燃料とするDT核融合反応を起こしますが、Tは自然界には存在しません。このため核融合炉ブランケットに充てんしたリチウム(Li)に中性子を照射しTを人工的に生産する必要があります。このLi増殖材としては、トリチウム放出特性に優れ、低放射化材料でもあるチタン酸リチウム(Li2TiO3)が最有力と考えられています。一方、核融合炉ではLi2TiO3は長時間、高温状態で中性子に照射されるため、結晶粒の成長や、Tを回収する際の水素(H2)ガスで材料が還元することにより、Tの放出量が減少する問題があります。このため結晶粒成長(焼結密度の増加)を抑制しかつH2ガスにより還元されにくいLi2TiO3の開発が必要でした。本研究は、この増殖材の実現に向けて、酸化物添加による特性改善を調べたものです。
添加する酸化物としては、2〜4価の金属酸化物であるCaO,ZrO2及びSc2O3の3種類に関して調査しました。試料は、単軸加圧成型後1,000℃にて焼成することにより、ペレットとしました(図3-20)。ペレット焼結密度の酸化物添加量への依存性を調べた結果、微量の酸化物添加においても無添加のペレットより焼結密度が下がる結果が得られました(図3-20)。すなわち結晶粒成長が抑制され、結晶粒間に十分な隙間が保持できることを発見しました。
次に、これらの酸化物を添加したLi2TiO3のH2雰囲気中での還元特性を調べるため、熱天秤を用いてH2還元時の酸素(O)欠損量を測定しました。酸化物添加により焼結密度が下がりすぎるとT放出特性に影響が生じるため、酸化物添加量は極力少量、かつ焼結密度が83〜86%T.Dを満たす図3-20の斜線で示す範囲を最適添加量として、本測定に使用しました。H2を導入して試料が還元されると、外見は白色から薄灰色または薄茶色に変色するとともに、O欠陥による重量減少が観察されました。還元後に酸化を行い、各試料の1molあたりのO欠損量を算出した結果が図3-21です。酸素欠損量はCaO添加<無添加<ZrO2添加<Sc2O3添加の順となり、CaOを添加する場合が最も還元されにくいことが分かりました。この理由としては、試料合成時にCaTiO3が生成され、Li2TiO3中のTiの量が少なくなることで、還元時に起きるTiの価数変化(4価から3価)の影響が低減し、還元が抑制されると考えています。
今回の研究により、Li2TiO3にCaOを添加することで、結晶粒成長の抑制の可能性だけでなく、H2により還元されにくい特性を持つことが分かり、高温においても安定したT放出量を維持可能な核融合炉のトリチウム増殖材料の研究開発が大きく前進しました。