3-9 核融合炉でのトリチウムと金属の相互作用の探求

−水素誘起局所超塑性によるピラミッド状の高ドームブリスタ形成を発見−

図3-22 タングステン表面にできたピラミッド

図3-22 タングステン表面にできたピラミッド

 

図3-23 空洞ができている微細なブリスタの内部

図3-23 空洞ができている微細なブリスタの内部

 

図3-24 大ブリスタの断面(粒界に空洞)

図3-24 大ブリスタの断面(粒界に空洞)

 

図3-25 加熱中の重水素放出の様子(加熱速度:0.5K/s)

図3-25 加熱中の重水素放出の様子(加熱速度:0.5K/s)


金属に水素やヘリウム等のガスが注入されると、表面にブリスタ(表面に現れるレンズ状の膨らみ)が形成されることが知られています。これまでの数keVイオン照射の実験ではブリスタの高さ(h )と幅または直径(d )との比率(h/d )が0.05程度以下であり、ブリスタ内部はガスが充てんした空孔であることが報告されています。

タングステンは高融点のため有望なプラズマ対向材料ですが、核融合炉内環境下での水素同位体プラズマとの相互作用を解明する必要があります。そこで、1,800℃熱処理した再結晶タングステンを用いて核融合炉周辺プラズマに相当する大量の重水素(エネルギー:数十eV,粒子束:1022D/m2s,フルエンス:1027D/m2まで)を照射し、ブリスタ形成の現象を調べました。この結果、図3-22と図3-23のようにピラミッドを始め様々な形状をした高いドームの大ブリスタや微細なブリスタが観測されました。ブリスタのh/d がいずれも従来のイオン照射の報告値より一桁以上高く、局所超塑性を示しました。また大ブリスタの内部には大きい空洞がありませんが、その下にある粒界には大きい空洞が形成されていました(図3-24)。一方、微細なブリスタは結晶粒内に数多く形成され、その内部はすべて空洞でした(図3-23)。更に、照射後の材料を加熱すると、ブリスタ爆裂に伴う重水素の突発的な放出が発生することを初めて観測し(図3-25)、水素の急激なリサイクリング現象を見いだしました。

高いドームのブリスタの形成は水素誘起原子空孔の形成とその後の水素−空孔クラスタの生成・合体、更にはその表面近傍から奥への拡散(すなわちタングステン原子の表面への拡散)という現象と考えられます。タングステンは、そのブリスタ形成が懸念されていますが、今回の研究により水素誘起による局所超塑性という機構が明らかとなり、今後ブリスタ形成の抑制手法を開発することで核融合炉内材料として期待できると考えられます。