図4-25 コンクリートの水分定量の一例
図4-26 コンクリートのひび割れ近傍の水分挙動の連続画像
我が国において、鉄筋コンクリート構造物の耐久性の把握・向上は、良質な都市資産やインフラの整備、環境負荷の低減などの観点から最重要課題の一つです。なかでもセメントと水の化学反応(水和)や、乾燥に伴う体積変化とひび割れ発生、鉄筋腐食や漏水など、鉄筋コンクリート構造物に生じる現象の多くに水がかかわっていることは古くから知られていました。しかし、コンクリート中の水分挙動をとらえることは非常に困難で、含水率計や湿度計などを埋め込むことで、少しずつその挙動が明らかにされてきました。これらの測定手法では対象とする系に影響を与えることなく、高空間分解能・高時間分解能での測定は不可能でした。緻密で高度なシミュレーションは行われているのですが、実試料での検証が非常に難しいのです。
図4-25及び図4-26は、JRR-3熱中性子ラジオグラフィ装置を用いてコンクリート内部のひび割れ中の水分挙動を動的にとらえることに成功した画像です。水平に存在する中央のひび割れ部分に画像左側のプールから水分が供給され、ひび割れ部分に沿ってじわじわと水分が移動している様子が鮮明にとらえられています。ひび割れ先端に供給される水分の速度や濃度分布、コンクリートマトリクス中への水分拡散などを高精度で定量可能であることが分かりました。画像データを詳細に分析してみると、ひび割れを有するコンクリート中のマクロな水分移動量及び移動速度はコンクリートの含水率に依存して変化することや、ひび割れ中の水分挙動に重力が大きな役割を果たしていること、重力の影響はひび割れ幅の影響よりも大きい場合があることなどが明らかになりました。
その他、建築外装材料を通した水分動態や、セメントの水和反応プロセスにおける水分挙動などの可視化・定量化も行い、多くの専門的な情報を得ることができました。
今後も、これまでとらえることのできなかった多くの現象を明らかにすることで、 更新時期の迫った鉄筋コンクリート構造物の劣化診断や、構造物の耐久性向上にかかわる技術の高度化などに極めて有用な解析手法として、我が国の良質な都市資産の形成に資することができると期待しています。
なお、本テーマは2006年度に文部科学省の中性子利用技術移転推進プログラムによって始まり、2007年度は施設一般共用として研究が進められています。