4-7 超新星の中で光が重元素を生成

−超新星爆発での光核反応による重元素生成の原理を解明−

図4-16 超新星爆発の光による新しい同位体の生成

図4-16 超新星爆発の光による新しい同位体の生成

超新星爆発において、酸素とネオンが豊富な領域(O/Ne)では光が元になる同位体に入射して原子核から中性子を剥ぎ取り、新しい同位体を生成します。

 

図4-17 様々な物理的な個性を有する超新星爆発での光による元素の生成量の計算結果

図4-17 様々な物理的な個性を有する超新星爆発での光による元素の生成量の計算結果

黒丸は質量が大きい場合、四角は重元素の初期組成が少ない場合、三角は爆発エネルギーが大きい場合の計算結果を示します。点線は3の値を示します。

鉄より重い元素の約99%は、太陽系誕生以前に存在していた多数の恒星の中で、中性子と原子核の反応によって生成されたことが判明しています。その一方で、残りの同位体のうち27核種の同位体は中性子では生成できないことが知られており、超新星爆発の光による起源仮説が提案されていました(図4-16)。太陽より8倍以上の質量を有する恒星は、生涯の最後に超新星爆発を起こします。超新星爆発では膨大な光が発生し、一部の光は光核反応を引き起こすほど高いエネルギーになります。このような高いエネルギーの光が原子核に入射すると、中性子を剥ぎ取る反応が発生し、新しい同位体が生成されます。そして、2004年に原子力機構(当時の原研)を中心とした研究チームによって、太陽組成では「光で生成された同位体の量と元の同位体の量の比はほぼ一定である」ことが発見されました。これは、光によって元素が生成された証拠です。

太陽系誕生以前に、銀河系の中で様々な質量,初期組成を持つ恒星が誕生しました。このような物理的な個性が異なる恒星は、それぞれ異なる進化をとげ、異なる元素の生成を行います。そのため、生成された元素の種類と量は恒星によって異なります。生成された元素は超新星爆発などによって星間ガスに還元されます。やがて、星間ガスから私たちの太陽系が誕生しました。残された問題は、どのような超新星爆発が太陽系の組成に影響を与えたのかという点です。

そこで、私たちは様々な質量,初期組成,爆発エネルギー等を持つ恒星の進化のモデル計算を行い、光によって元素が生成される様子を再現しました(図4-17)。その結果、3種類の異なる超新星爆発で生成された同位体と元の同位体の比はほぼ一定であることが分かりました。すなわち、生成された同位体と元の同位体の比の分布は、恒星の個性に強く依存しないことが判明しました。次の問題はなぜこのような現象が起きるのかということです。計算結果を分析し、そのメカニズムを解明しました。

超新星爆発において光により新しい同位体が生成される恒星内の領域は、図4-16に示す酸素やネオンの豊富な領域やその近傍であることが分かりました。この領域は、恒星の爆発エネルギーや質量によって異なりますが、その領域の中の温度の分布はほぼ同じです。すなわち、超新星爆発において、ある温度領域でのみ光による同位体の生成が起こるのです。温度が一定であるため光の分布も一定であり、元になる同位体から同じように新しい同位体が生成されます。したがって、恒星の個性に関係なく、超新星爆発で生成された元素では、「光で生成された同位体の量と元の量の比が元素の種類に関係なく一定である」関係が常に成り立っているのです。そのために、多数の恒星で生成された物質から成る太陽組成でも、この関係が成り立っています。