図4-21 グラフト重合によるポリヒドロキシブチレート(PHB)の生分解性制御技術
図4-22 アルカリによる加水分解の酢酸ビニルをグラフト重合したポリヒドロキシブチレート(PHB)の生分解性への影響
生分解性プラスチックは、地中に埋めると最終的に水と炭酸ガスに分解されるため、廃棄物の蓄積を抑制できる材料として、その普及が期待されています。我が国では、世界の利用量の10%である6,000tが一年間で利用されています。ポリヒドロキシブチレート(PHB)は、微生物の体内に蓄積されるポリエステルであり、生分解性のプラスチックの一つです。電子レンジ用の加熱容器に使用されているポリプロピレンと同じくらいの力学(機械)的強度がありますが、埋立地のような嫌気的条件でも自然界の微生物により速やかに分解されます。したがって、食器や家電筐体などに応用するためには、使用している間は生分解が進まず通常のプラスチックと同じように安定で、廃棄後はアルカリ等の薬品処理により生分解する特性を発現させる必要があります。
グラフト重合は、プラスチックの基材の上に、接木のように他のプラスチックをつけることができます。この手法では、基材に電子線やγ線を照射して、活性点を形成し、そこに反応性の試薬を加えることにより、試薬分子が連なった枝が成長します。図4-21に示すように、PHBのフィルムに電子線を照射して酢酸ビニルをグラフト重合すると、酢酸ビニルが連なった分子鎖がPHBの表面を覆います。PHBは生分解性のプラスチックですが、表面を覆った酢酸ビニルは生分解性でないため、PHB重量の15%程度、グラフト重合すると生分解性が消失します。図4-22に示すように、酢酸ビニルをグラフト重合したPHBフィルムは、生物化学的酸素消費量(BOD)測定で評価するとほとんど分解しません。ところが、PHB表面のポリ酢酸ビニルの枝をアルカリ処理すると、酢酸ビニルの加水分解により酢酸がはずれ、ポリビニルアルコールになります。ポリビニルアルコールは生分解性のため、アルカリ処理の時間を変えて、加水分解の度合いを増加させるに従い、生分解性は回復しました。約80%加水分解することで、PHBフィルムと同等の生分解性を示すようになりました。このように、酢酸ビニルのグラフト重合とアルカリ処理を組み合わせることで、使用時には生分解性を示さず、廃棄前にアルカリ処理をすることで生分解性を発現することができ、PHBなどの生分解性材料を広い応用分野で可能にすることができます。