図5-13 定常臨界実験装置(STACY)の炉心概念図
図5-14 最新の臨界計算手法の計算誤差評価
発電用原子炉を含む核燃料サイクル全体からは、各種の廃棄物が発生します。原子炉の中で同じ燃料を長い間燃やすことができれば、発電量当たりの廃棄物量を減らすことができます。燃料の高燃焼度化を図るためには、長い間燃やしても燃料が破損しないことと、燃やす前のウランの濃縮度を上げることが重要になります。前者については、本誌2006年創刊号トピックス5-3で取り上げましたので、ここでは後者の課題への取組について説明します。
従来の核燃料サイクルではウランの濃縮度の上限を5%としてきました。濃縮度を5%以上にしようとすると、臨界量が小さくなります。例えば、円筒容器の直径を制限して溶液状のウラン燃料の臨界安全管理を行う場合には、直径を小さくすることになります。ただし、容器の直径を単純に小さくすると処理量が減りますので、臨界安全上問題にならないことを確認しつつ、処理量の減少をできるだけ抑えることが要求されます。そのため、直径を決める上で臨界計算手法の誤差を考慮した中性子増倍率の制限値(推定臨界下限値)をできるだけ高精度で求めることが必要になります。
私たちは、中性子増倍率の計算誤差を把握するために臨界実験を行っています。濃縮度10%のウランの水溶液を定常臨界実験装置(STACY)の容器に入れて、臨界になる条件を高精度で測定しました(図5-13)。
上記のSTACYでの臨界実験や国際協力を通して実験精度が確実に評価された臨界実験を解析して、計算プログラムMVP第2版と核データライブラリJENDL第3.3版を組み合わせた計算の誤差を評価しました。図5-14に解析結果を記号で示しました。臨界実験を対象としているので、中性子増倍率は、本来は1になるべきものです。中性子増倍率の計算値のばらつきは、計算プログラムと核データライブラリの組合せの計算誤差に基づくものです。この計算結果から更に、臨界になると推定される中性子増倍率の計算値(推定臨界値)と、これ以下ならば臨界にならないと推定される中性子増倍率の計算値(推定臨界下限値)を、統計理論を用いて求めました(図5-14の実線及び破線)。求めるに当っては従来とは異なり、ウラン濃縮度や、中性子の速度に大きな影響を与える水素とウラン235原子個数密度比の依存性も考慮することにより臨界計算誤差評価の高精度化を図っています。
ここで述べたように、私たちは臨界実験や臨界安全評価に関する研究を行うことにより、将来の高燃焼核燃料サイクルの臨界安全評価に備えています。