7-3 アクチノイド分離用抽出剤の耐放射線性向上を目指して

−放射線分解のメカニズム解明により抽出剤改良の指針を得る−

図7-10 TODGAの主な放射線分解反応

図7-10 TODGAの主な放射線分解反応

TODGA又はそのドデカン溶液にγ線を照射すると、主に三つの結合((a),(b),(c))が切れやすく、特に実プロセスに近い硝酸が共存する系では、アミド結合(a)の開裂が優先して起こります。

 

図7-11 ドデカン中TODGAの放射線分解メカニズム

図7-11 ドデカン中TODGAの放射線分解メカニズム

ドデカン中TODGAの放射線分解は、直接イオン化するだけでなく溶媒−溶質間の電荷移動反応によっても引き起こされることが、パルスラジオリシス実験で観測されました。

核燃料物質の有効利用及び放射性廃棄物処分における負担の軽減化を目的として、使用済核燃料から長寿命のアクチノイドを選択的に分離回収する技術の開発が進められています。私たちはこれまでに、アクチノイドと強力に錯形成する抽出剤として、N,N,N',N'-テトラオクチルジグリコールアミド(TODGA)を開発してきました。TODGAは3座配位型のジアミド化合物で、そのドデカン溶液を用いると高濃度の硝酸水溶液から3価,4価のアクチノイドイオンを高収率で選択的に抽出できるといった特徴があります。

アクチノイド分離用抽出剤を実プロセスへ適用するためには、強い放射線場における抽出剤の安定性と抽出性能の保持が求められます。そこで私たちは新抽出剤開発の一環として、TODGAを始めとする抽出剤の放射線分解に関する研究を行ってきました。

図7-10に、γ線照射によるTODGAの主な分解反応を示します。TODGAは放射線に対してアミド結合とエーテル酸素近傍の結合が比較的弱く、特に硝酸が共存する系ではアミド結合の開裂(a)が優先し、ジオクチルアミンとN,N-ジオクチルジグリコールアミド酸が主に生成することが分かりました。照射により劣化した抽出剤を用いてアクチノイドの抽出を試みたところ、実プロセスで少なくとも数十サイクルに相当する大線量の放射線を吸収しても、抽出性能の著しい低下は認められませんでした。このことから、これら分解生成物もアクチノイドの抽出に寄与しているものと考えられます。

次に、溶液の組成をいろいろと変えてTODGAの放射線分解における希釈剤の効果を調べたところ、ドデカンにはTODGAの放射線分解を促進させる作用があるとの興味深い結果を得ました。そこで、溶液中のドデカン分率を低下させるねらいから、放射線化学的に安定なベンゼンやモノアミドを添加剤として加えるとTODGAの分解を抑えることができました。

電子線パルスラジオリシス法により放射線分解初期過程を観測した結果、図7-11に示すようにドデカンのイオン化により生じたラジカルカチオン(RH+・)から、よりイオン化ポテンシャルの低いTODGA分子(S)へと電荷が移動することにより、TODGAの分解が進むことが分かりました。そこで、TODGAよりもイオン化ポテンシャルの低い溶媒を希釈剤に用いると、予想どおりTODGAの分解が抑えられる結果となりました。

更に、分子内に放射線化学的に安定な芳香環を導入することによっても、抽出剤の耐放射線性向上が認められました。今後新抽出剤を開発するにあたり、抽出性能を向上させるだけでなく、本研究で得られた知見を基に、放射線化学的視点からも抽出剤の改良を行っていきます。