7-4 乾式再処理におけるマイナーアクチニド挙動解明へ向け大きく前進

−腐食性ガスを使用しないマイナーアクチニド塩化物合成法を開発−

図7-12 MA塩化物合成方法の概略

図7-12 MA塩化物合成方法の概略

塩素ガスなどの腐食性ガスを使用せずにMA酸化物からMA塩化物を合成します。ここでMはAmなどのMA金属元素を示します。

 

図7-13 合成したAm塩化物(AmCl3)の外観

図7-13 合成したAm塩化物(AmCl3)の外観

炭素熱還元法で合成したAmNとCdCl2の混合物の成型体を600〜723Kで真空加熱することによって、微粉末状の試料が得られました。

 

図7-14 合成したAm塩化物(AmCl3)のX線回折パターン

図7-14 合成したAm塩化物(AmCl3)のX線回折パターン

これまでに報告されている他の合成法で得られたAmCl3のX線回折パターンと良く一致し、不純物の混入は認められませんでした。なお、×印で示したピークは白金製試料ホルダーに由来するものです。

将来の核燃料サイクルでは、廃棄物処分の負担軽減を目指し、現在は高レベル廃棄物に区分されているマイナーアクチニド(MA:ネプツニウム(Np),アメリシウム(Am),キュリウム(Cm))をリサイクルする技術が必要とされています。私たちはMAを含有する燃料の再処理法として、溶融塩を溶媒として用いる乾式再処理技術の研究開発を行っています。乾式再処理は、高放射能・高発熱性の使用済燃料処理に適し、湿式再処理に比べて核拡散抵抗性に優れ、またコンパクトなプロセスで経済性が高い再処理法として期待されています。乾式再処理法プロセスの開発のためには、溶融塩中でのMAの挙動を理解し制御する必要がありますが、MA挙動に関する基礎データは非常に少ないのが現状です。そこで、溶融塩中でのMA挙動を精度良く測定するために、空気中の水分や酸素と反応しやすいMA塩化物を取り扱うための不活性ガス雰囲気のホットセルやグローブボックスなどを整備し、実験に欠かせないグラムスケールのMA塩化物試料を合成することとしました。ここで、塩化物を合成する際に一般的に使用される塩素ガスや塩化水素ガスは設備を腐食するおそれがあるため、これらの腐食性ガスを使用しない新たなMA塩化物の合成方法の開発が必要となりました。

そこで、私たちは入手が比較的容易なMA酸化物を原料として用い、腐食性ガスを使用せずにMA塩化物を合成する方法を開発しました。この方法では、まず既に確立されている炭素熱還元法によって酸化物から窒化物を合成し、更に窒化物と塩化カドミウム(CdCl2)の固相反応によって塩化物を合成します(図7-12)。これまでに、アルゴンガス雰囲気中でMAを使用した実験ができるTRU高温化学モジュールにおいて、不純物の少ない高純度のAm塩化物(AmCl3)などのMA塩化物を高い収率で合成することに成功しました(図7-13,図7-14)。窒化物とCdCl2の固相反応による塩化物合成は、使用する試薬に酸素を含まないため、酸化物等の副生成物が生じにくいという利点もあり、MA塩化物以外にも高純度の塩化物を合成するのに適した方法です。

これまでに、合成したMA塩化物を用いた実験によって、MA塩化物を含んだ溶融塩中のMA挙動、窒化アメリシウムの溶融塩電解時の挙動などを明らかにしました。今後、MA塩化物の基礎物性測定や、塩化物を原料とした金属や他の化合物の合成及びこれらの物質の基礎物性測定など、乾式再処理におけるMA挙動を解明するための基礎研究を進める予定です。

本研究内容は、東北電力株式会社,東京電力株式会社及び日本原子力発電株式会社との共同研究「乾式再処理における超ウラン元素の挙動研究」の成果の一部です。