図7-15 臨界事故での中性子被ばくに伴う24Naの生成
図7-16 RADAPASによる線量評価のフローチャート(核燃料及び遮へい体の情報に基づく線量評価)
万が一にも臨界事故が発生した場合、迅速に被ばく線量を評価し、線量レベルに応じた医療措置を遂行することが重要です。しかし、過去の事故では、線量計を携行しないで、重度の被ばくを受けた例がありました。このような場合、図7-15のように中性子被ばくで体内に生成された放射性核種24Naの量に基づき、線量を評価することができます。しかし、24Naの生成量から線量への換算は事故現場の放射線の種類やエネルギー分布(放射線特性)により大きく変化し、容易ではありません。そのため、この方法は事故直後の評価で重要とされる迅速さと正確さの両面で課題がありました。
そこで、体内の生成24Na量から線量を迅速に評価するプログラム「臨界事故時における体内元素放射化ナトリウム量に基づく迅速線量評価プログラムRADAPAS(RApid Dose Assessment Program from Activated Sodium in human body in criticality accidents)を開発しました。RADAPASは、換算係数などを含むデータベース部及び線量計算の実行部で構成されます。図7-16にRADAPASによる線量評価のフローチャートを示します。核燃料を含む線源の条件は、事故現場の放射線特性に大きな影響を与えます。RADAPASでは、パソコンに表示される画面(グラフィカル・ユーザー・インターフェイス,GUI)に従い、ユーザーが事故現場の情報に基づき、核燃料及び遮へい体を組み合わせて線源条件を対話形式で設定できます。この設定条件に対応する線量換算係数が、データベースから自動的に選択されます。その後、体内に生成された24Na量を入力し、中性子及びγ線による被ばく線量が計算されます。データベースには、核燃料及び周囲の遮へい体の異なる約50条件を想定し、放射線輸送計算で解析された線量換算係数が含まれています。そのため、体内の生成24Na量に基づき、従来よりも正確な線量計算が可能となりました。算出された線量は、必要な条件が設定された直後に数表として示されます。また、RADAPASでは、現場の詳細な放射線特性を解析できた場合、これらの情報を利用して、より正確に線量を計算することもできます。
RADAPASによる線量評価は、過渡臨界実験装置(TRACY)における実験で検証し、十分に事故の発生直後に適用可能であることを検証しました。このように、線量計による測定値がないという最悪の事態でも、医療機関が必要とする線量情報を迅速かつ正確に提供することが可能となりました。