図1-15 三次元解析手法の必要性
図1-16 反応度履歴の比較
図1-17 炉心物質の運動挙動(SIMMER-IV解析)
FBRでは、発生頻度は工学的に無視できるほど小さくても、その発生を仮定すれば短時間で全炉心損傷に至り、その熱的及び機械的影響によって炉心燃料中の放射性物質が短時間に放散する可能性がある炉心損傷事故を課題として扱ってきました。炉心損傷時にはナトリウム沸騰によって出力が増加し、燃料ピン(被覆管)の破損・溶融、さらには燃料の溶融に至る可能性があります。この3000℃を超える高温の溶融燃料により、燃料集合体のラッパー管が溶融し、溶融炉心物質は集合体間で互いに移動できる溶融炉心プールを形成すると考えられています。
これまでの評価では、安全解析コードSIMMER-IIIが活用されてきました。本コードは流体力学部を中核として構造材モデルと核計算モデルを結合した国産コードです。しかしながら、SIMMER-IIIは二次元コードであるため、周方向運動を模擬できず炉心中心への燃料集中を生じやすく、反応度が過度に上昇しやすい傾向がありました(図1-15(a))。また、炉心内に分散的に配置されている制御棒案内管を模擬することができないため、それを通じた溶融燃料流出による反応度低下挙動をとらえることができませんでした(図1-15(b))。そのような制約により、これまでの安全評価では制御棒案内管からの燃料流出を無視するなど、保守的な評価を余儀なくされてきました。これらの保守性を合理的に低減した評価を可能にすべくSIMMER-IIIを三次元に拡張したSIMMER-IVを開発し、世界に先駆けてFBRの炉心損傷事故の三次元解析を実施しました。
解析した結果(図1-16)、SIMMER-IIIを用いた解析では、2.4秒以降に定格以上の出力が維持されることによって燃料が溶融して可動性を増し、炉心内側への燃料凝集により3.9秒で即発臨界を超過しました。他方、SIMMER-IVを用いたケースでは、2秒前後で制御棒案内管が次々と非同時的に破損し、燃料を冷却することによって燃料プールは可動化することなく燃料凝集による反応度上昇は見られませんでした。図1-17の炉心内の燃料プール運動を見ると、1秒では激しく炉心内を燃料が運動し、4秒では燃料プール内でナトリウムが蒸発しています。7秒では燃料運動が静定している様子が分かります。相変化・熱伝達・流動を伴う複合現象下で炉心物質の三次元運動をシミュレーションすることができました。
以上から、炉心損傷事故の合理的な評価を行う上で、従来の二次元解析評価と比べて三次元解析が有効であることが分かりました。