1-6 溶融炉心物質のふるまいの実験的解明

−カザフスタンとの共同研究によるEAGLEプロジェクト−

図1-18 IGR炉と試験体

図1-18 IGR炉と試験体

 

図1-19 炉心溶融事故状況の模擬概念

図1-19 炉心溶融事故状況の模擬概念

 

図1-20 EAGLEプロジェクト試験におけるデータの例

図1-20 EAGLEプロジェクト試験におけるデータの例


FBRの安全研究として、極めて起こるとは考え難いのですが、炉心溶融事故を想定した場合の溶融炉心物質のふるまいを実験的に確認し、このような厳しい事故に対してもその影響が適切に抑制できることを示すための試験研究EAGLEプロジェクトを実施しています。この実験は原子力機構とカザフスタン共和国国立原子力センターの共同研究として、同センターの実験専用原子炉IGR(Impulse Graphite Reactor)を用いて実施しています。IGRでは、図1-18の概念に示すように炉心の中央に試験体を入れる孔が配置されており、この中に二重の圧力容器に収納された試験体を挿入して実験を実施しています。これまでに8kg程度の二酸化ウラン燃料を溶融させて炉心溶融事故時の状態を模擬する実験を3回実施し、事象の進む様子を把握しました(図1-19)。図1-20はこの中の一つの試験で観測された実験データの例です。この実験では溶融した炉心燃料がステンレス製ダクト構造を破り、炉心周辺(この試験では下方向)へと流出してナトリウムと混合して冷却される過程が実現されています。図に示した熱電対データのほかにボイド計(ナトリウム内の気泡を検出)や圧力計,音響計などの多様なデータが得られており、ステンレス製ダクト構造の破損と、ダクト内のナトリウムが溶融燃料との接触によって炉心部分から下方向へと押し出され(上部の熱電対から順々に温度上昇をとらえています)、その後溶融燃料が流出している様子をとらえることができました。

従来FBRの炉心溶融事故については、大量の溶融燃料が炉心部に溜まったままとなり、これが自由に流動することで出力が急上昇する可能性を考え、このような状況を想定した安全評価を行ってきましたが、EAGLEプロジェクトの試験研究によって、溶融した燃料は炉心周辺へと流出しやすく、炉心部分に大量の溶融燃料が留まる可能性は小さいことが示されました。このようにして得られた新たな知見に基づくと、従来の安全評価は保守的(より厳しい)条件で評価していたことが分かり、また燃料流出が容易になるような設計を積極的に採り入れることでこのような出力急上昇の問題が排除できるとの見通しが得られています。