2-5 地層処分技術に関する知識基盤の構築に向けて

−地質環境調査にかかわるノウハウや判断根拠の分析・整理−

図2-8 掘削水トレーサ選定支援エキスパートシステムの開始画面

図2-8 掘削水トレーサ選定支援エキスパートシステムの開始画面

 

図2-9 掘削水トレーサ選定における条件の入力画面及び設定結果の例

図2-9 掘削水トレーサ選定における条件の入力画面及び設定結果の例

この例では、四つの選定要件のうち、使用者が二つの条件((a)のチェックしてある項目)を選定した際に、その条件を満たす八つの化合物が提案されています(b)。使用者はこの中から使用する化合物を選定します。

地層処分技術に関する研究開発の一環として、深地層の研究施設計画を岐阜県瑞浪市及び北海道幌延町において進めています。このうち、岐阜県瑞浪市において進めている深地層の研究施設計画を超深地層研究所計画と呼び、1996年に本計画にかかわる現地調査を開始しました。2007年には、地表からの調査研究予測段階(第一段階)の研究成果を取りまとめた報告書を公開しました。この報告書は、私たちが第一段階の調査研究として実施した現地調査,モデル化,解析などの結果を総合し、研究対象とする地質環境を調査・評価するための体系的な手法を提示したものです。しかし、調査に使用する手法や機器などの選定、調査位置の決定や調査途中での仕様の変更などについては、その結果は報告書などに記述されるものの、理由や根拠は記述されていないため、調査担当者や研究者の経験や知識としてしか蓄えられることができません。

これらの経験や知識を表出化し、整理することは、地層処分事業の実施主体(原子力発電環境整備機構)などの調査担当者が地質環境調査を実施する際に、判断が必要なケースにおいて、直接参考にできる成果になると考えられます。
 そこで、本研究では超深地層研究所計画の第一段階調査研究を対象として、上述のような経験や知識を表出化させることを試みました。この試みでは、対象とする分野の専門家はもちろんのこと、当該分野の専門家以外の研究者にも活用できるように、判断の流れをif-then形式のルールで整理し、これに基づきエキスパートシステムを構築しました。今回は、7種類のエキスパートシステムを構築しました。一例として、掘削水トレーサ選定支援エキスパートシステムの開始画面を図2-8に示しました。このエキスパートシステムでは、使用者が入力する条件に応じて、超深地層研究所計画での事例に基づき、適切なトレーサを提案します(図2-9)。また、提案したトレーサの基本特性や安全性に関する情報も閲覧することができます。

今回の試みにより、専門家の判断(エキスパートジャッジメント)もルールとして表現できることが分かり、このような方法で知識と経験を整理していくことによって、次世代又はそれ以降の世代にまで知識などを引き継ぐことが可能であることを示すことができました。地層処分のような数10年から数100年にわたる事業では、このような方法による知識の管理が有効であると考えています。

本研究は、平成19年度資源エネルギー庁からの受託研究「地質環境総合評価技術高度化開発」の成果の一部を活用しました。