図3-8 世界の研究拠点で達成した1MW以上の高出力
図3-9 高周波源ジャイロトロンの概念図
JT-60高周波加熱電流駆動装置の高周波源(1MW,5秒定格の110GHzジャイロトロン)で、世界記録となる1.5MW,1秒間の出力に成功しました(図3-8)。
核融合実験では、プラズマ中の物理現象の時定数が1秒前後であるため、1秒程度以上のパルス幅の高周波入射による加熱と電流駆動が不可欠です。ITERや核融合原型炉(DEMO炉)などの将来の装置では、定常的な高周波入射が必要とされ、定常運転可能なジャイロトロン開発が進められています。一方、高性能なプラズマを制御する実験では、最大入射電力の大きさが実験成果を大きく左右します。そのため、長パルス化に加えて、ジャイロトロン1本当たりの最大出力電力を向上することが非常に重要です。ジャイロトロン内では、大電流電子ビームや高出力高周波により内部の部品が加熱され、部品の破損や真空度の劣化による管内放電,空胴共振器の膨張による発振条件の変化などによる発振停止が起こります。そのため、実機として用いられてきたジャイロトロンの出力は1MWに制限されており、1.5MW出力は十分な除熱能力のない試験体で、0.1秒以下の発振試験が行われたに過ぎませんでした。この問題を解決するため、加熱される部位を特定して、耐熱性能と除熱性能をより一層向上させ、実験に有用となる1秒程度以上のパルス幅において、熱負荷の影響を受けない安定な高出力発振を実証することが不可欠でした。
これまでの研究開発で、ジャイロトロン(図3-9)内の不要高周波透過によって、絶縁用セラミックの局所的な誘電加熱が起こり、破損の可能性があることを明らかにしました。そこで、セラミック材質を従来のアルミナから、高周波による加熱により強い窒化珪素製に変更した、JT-60ジャイロトロン改良管を開発してきました。この改良ジャイロトロンを用いて、1.3MWまでの広い出力領域で、各部の詳細温度計測と熱入力の評価を行いました。その結果、実験データのスケーリングから、空胴共振器の冷却強化により、大電流化した場合でも安定な発振が得られる可能性が見いだされ、ビーム電流の大電流化と空胴共振器の冷却強化改造を行いました。今回、この改良ジャイロトロンを用いた精密な発振調整により、世界で初めて1.5MWの出力を1秒間安定に維持することに成功しました。これにより、実験に有用なパルス幅でのジャイロトロン発振と、高周波電力伝送が1.5MW出力で可能であることを初めて実証しました。このとき、空胴共振器の温度飽和(冷却水の沸点以下)が発振開始から0.5秒程度で観測され、空胴共振器の膨張による発振条件変化の影響のない安定な発振が得られました。今後の電源,伝送系などの改良により、高性能プラズマの制御が可能な高出力ジャイロトロンのパルス幅領域を、長パルス方向へと拡大することが期待できます。