図3-10 開発したITER用プラズマ加熱装置ジャイロトロン
図3-11 プラズマ加熱装置ジャイロトロンの性能達成
ジャイロトロンは、電子ビームエネルギーを数GHzからTHzに至る電磁波エネルギーに変換する電子管であり、ITERではプラズマを加熱する装置として使用されます(図3-10)。電子レンジと同様の手法により、外部からマイクロ波を当て核融合達成の条件である1億度のプラズマを実現しようとするものです。
そのために要求される性能は、周波数170GHz(電子レンジの70倍)で、出力1MW(電子レンジの2000倍)、効率(入力の直流電力から、高周波として出力される電力の割合)50%以上の高出力・高効率発振をITERの代表的な運転時間である500秒間持続させることでした。原子力機構では、約15年前からITER用ジャイロトロン開発に着手し、エネルギー回収技術,高出力発振技術,人工ダイヤモンドを用いた出力窓技術などの先進技術を世界に先駆け次々と開発してきました。また、マイクロ波を安定に発振させるために必要なビーム電流を一定に制御する定常発振技術に加え、エネルギー源となる回転電子ビームの回転周波数と回転比(らせん運動の回転速度と進行速度の比)を発振中に最適化する新技術を組み合わせることで、発振が容易な従来の運転領域から高い効率が得られる運転領域(難発振領域)に安定に移行させることに世界で初めて成功しました。その結果、これまでの世界記録を大きく上回る出力1MWで発振効率55%を達成しました。更に、ITER計画後半に計画されている定常運転フェーズに必要な1時間発振も、出力0.8MW、57%の高効率で実証しました(図3-11)。これらの成果は、ITERにおける高出力ジャイロトロンの開発目標値を世界で初めて達成するもので、ITER計画の進展に大きな貢献をしました。同時に、この高効率発振を実現する物理機構を解明しました。これは、ジャイロトロンの安定化や性能の拡張をもたらし、さらなるITERの加熱装置の性能向上に大きく貢献するものと考えられます。発振が安定化し、効率が向上したことにより、他分野へのジャイロトロンの応用や波及効果も期待されています。
本研究「ITER(イーター)用大電力高周波加熱装置の定常及び高効率化研究」は、「平成20年度科学技術分野の文部科学大臣表彰」科学技術賞(研究部門)を受賞しました。