3-6 大面積負イオン源の開発

−低ガス圧高均一負イオン生成とメンテナンスフリー負イオン源を目指して−

図3-12 高周波負イオン源

図3-12 高周波負イオン源

48cm(高さ)×24cm(幅)×20cm(奥行)の銅製プラズマ拡散容器とセラミック製プラズマ生成容器(内径18cm)で構成されます。プラズマ生成チャンバの周囲に巻き付けられた高周波アンテナを用いてプラズマを生成します。

 

図3-13 (a)高周波負イオン源の断面図と磁力線分布(橙色線)、(b)高周波負イオン源の動作領域

図3-13 (a)高周波負イオン源の断面図と磁力線分布(橙色線)、(b)高周波負イオン源の動作領域

永久磁石による磁場の効果で1Pa以下の低い圧力で、かつ、より少ない電力で効率良くプラズマを生成できるようになりました。

ITERやDEMO炉では、炉心プラズマを1億℃に加熱するために中性粒子入射装置(NBI)が重要な役割を果たします。NBIでは、1MV級の高電圧を利用して加速した水素や重水素の大電流負イオンビームを中性粒子ビームに変換し、長時間にわたって安定に炉心プラズマに入射することが必要です。したがって、プラズマ中に負イオンを作り出す「負イオン源」には、高出力,高均一性,長寿命といった高い性能が求められます。現在稼働中の大型装置に取り付けられているNBIでは、空間的に均一な負イオンビームが得られておらず、ビームの「濃淡」が生じています。このような状態でビームを加速すると、一部のビームが発散してしまい下流の機器に熱損傷を与えるといった問題が生じています。私たちはこれまでに、負イオンビームの不均一性の原因が、負イオン源を取り囲む磁場であることを突き止めました。そして、負イオン源内の磁力線を末広がりとした「テント型磁場」(図3-13(a))に改良することで、プラズマ及び負イオンを大面積に均一に生成することに成功し、高均一性の課題の解決方法を示しました。

従来の負イオン源では、電流を流して赤熱させたフィラメントから熱電子を放出させて生成したプラズマから負イオンを引き出します。負イオン源を高出力で長期間にわたり運転すると、フィラメントが損耗し、さらには断線してしまい、長寿命化の妨げとなっています。ITERでは1年に2回のメンテナンスが想定されており、最低半年間の繰り返し運転に耐えることが求められています。

今回私たちは、フィラメントを用いず高周波(RF)放電によりプラズマを生成するメンテナンスフリーを目指した「高周波負イオン源」(図3-12)の開発を開始しました。セラミック製プラズマ生成容器の外部に巻き付けたアンテナに数MHz帯(1秒間に100万回以上振動する)の高周波電流を流し電磁波を発生させます。この電磁波がガスをイオン化してプラズマを生成します。水素ガスを用いた2MHzのRF放電では、負イオン源内の圧力を4Pa以上にしないとプラズマが維持できませんでした。しかし、加速された負イオンがガス粒子と衝突し消滅するのを抑えるために、ITERの負イオン源は、十分に低い圧力(0.3Pa,大気圧の約100万分の1)で動作させることが求められています。

そこで、図3-13に示すように永久磁石を配置して、テント型磁場と容器表面に沿う磁場で負イオン源の囲み、RF放電と組み合わせました。その結果、磁場によって容器壁でのプラズマの消滅が抑えられ、1Pa以下の低い圧力で、かつ、より低い電力でもプラズマを維持できることを示しました。これは、ITERのNBI用高周波負イオン源において要求される低ガス圧運転に貢献できる有効な手法です。