4-10 コンクリート構造物中の鉄筋のひずみを見る

−中性子回折法による非破壊ひずみ測定技術の応用−

図4-23 中性子回折法によるひずみ測定原理

図4-23 中性子回折法によるひずみ測定原理

原子間距離の変化に起因した回折線の回折角(2θ)の変化を測定することで格子ひずみを求めることができます。

 

図4-24 コンクリート中の鉄筋の応力分布

図4-24 コンクリート中の鉄筋の応力分布

50mm×50mm×800mmのコンクリート中に埋設された直径16mmの鉄筋の長手方向(負荷方向)の応力分布を示しています。

 

図4-25 中性子回折法によるひずみ測定の様子

図4-25 中性子回折法によるひずみ測定の様子

中性子線はコンクリートを抜けて内部の鉄筋に照射され、鉄筋からの回折線は検出器により測定されます。

鉄筋コンクリート構造の性能は、鉄筋とコンクリートの付着抵抗機構(接触面での応力伝達機構)に影響されることが知られており、鉄筋のひずみ状態から付着特性の評価が行われます。従来は、鉄筋の数点に離散的に貼付したひずみゲージにより測定されていましたが、ゲージ部の防水処理や配線の取り回しなどが付着特性に及ぼす影響は無視できないものであり、また、離散的にひずみ分布を測定するため、ひび割れ近傍の応力分布などを詳細に測定することはできませんでした。一方、中性子回折法は、中性子線の回折現象を利用して、原子間距離を定量的に評価する物理的な計測法であり(図4-23)、数mmから数cmオーダーの物質内部の応力・ひずみ状態を、数mm程度の位置分解能により、非破壊・非接触で測定することができます。また、コンクリート中の蒸発性水分及びセメント硬化体中の結合水など、中性子に対して吸収係数の大きい水素元素を多く含むコンクリート構造物においては、中性子強度が大きく減衰すると考えられますが、コンクリート中の水分をできるだけ乾燥させることで、50mmから100mm角のコンクリート内部の鉄筋のひずみ測定が可能であることが分かりました。

図4-24は、中性子回折法により測定したひずみ分布から導出したコンクリート内部の鉄筋の応力分布を示した結果です。図4-25に示すようにコンクリートに埋設されている鉄筋の両端に155MPa及び309MPaの引張負荷を加え、そのときの鉄筋長手方向の応力分布を測定した結果です。負荷応力が増加するととともに鉄筋にかかる応力も増加しますが、鉄筋とコンクリートの付着により、コンクリートにも力が伝達するため、鉄筋に生じる応力は負荷応力よりも小さい傾向を示します。また、負荷応力が大きくなると、応力分布のばらつきがやや大きくなるように見えますが、これは鉄筋の節近傍に発生する応力集中部や、ひび割れ近傍の付着損失の影響と考えられており、ひずみゲージでは見えない詳細な応力分布も測定できる可能性を確認しました。このように、中性子回折法を用いることで、鉄筋に生じる応力分布を非破壊・非接触で詳細に測定できるほか、ひずみゲージによる測定が困難とされてきた、ひび割れ近傍の応力分布の測定なども可能になると期待されています。中性子回折法の利用により、ひずみゲージでは得られなかった新しい知見や事実が、今後明らかになる可能性があります。


●参考文献
兼松学, 野口貴文, 安田正雪, 鈴木裕士, 残留応力解析用中性子回折装置(RESA)による鉄筋応力の非破壊測定, コンクリート工学年次論文集, 第30回コンクリート工学講演会, 福岡, vol.30, 2008, p.775-780.