図4-26 レーザー光のコントラスト
図4-27 光パラメトリックチャープパルス増幅OPCPAの概念図
現在、代表的な高強度レーザーとしてチタンサファイアレーザーが用いられています。しかし、構成する光学部品や機器の数が多く装置がまだまだ大型であり、図4-26(a)に示すように高強度レーザーパルスに付随する不必要なノイズ成分が多い(コントラストが低い)出力となっています。例えば、1TWの出力を得るのに増幅部の大きさは数m必要で、通常のコントラストは5〜6桁程度です。コントラストが低いと大きなノイズによって物質が破壊したり、物質表面でプラズマが発生するなど、本来のレーザーパルスのみによって生じる理想的な現象が得られなくなります。例えば、レーザー駆動粒子加速器などに利用するにはノイズの影響により、粒子を高エネルギーまで加速できないなどの大きな技術課題がありました。
私たちはこの問題に対して、光パラメトリックチャープパルス増幅(OPCPA:Optical Parametric Chirped Pulse Amplification)という手法(図4-27)を改良して高強度レーザーの増幅技術を開発しました。OPCPA法では、レーザー光(シグナル光)が増幅される時間はポンプ光のパルス時間のみです。したがって、短いパルス幅を持つポンプ光を用いることにより、増幅可能な時間を短くできます。これにより、ノイズ成分の増幅を最小化することができ、シグナル光のレーザーパルスのみを選択的に増幅することができます。私たちは、特に、(1)小型化及び低ノイズ化のために、ポンプ光とシグナル光の空間的なビームのオーバーラップ(重なり状態)を向上させ増幅率を最大限まで高める技術、(2)低ノイズ化のために複数の非線形光学結晶を用いて多段のOPCPAを構成し、増幅率を高精度に制御する技術を開発しました。
その結果、(1)数mの増幅部が数10cmと高強度レーザーを従来の1/10以下の小型化にすることとともに、3TWの世界最高のレーザー出力を達成すること、(2)図4-26(b)に示すように8桁のコントラストを達成することに成功しました。
今回得られた増幅器の小型化や高コントラスト化といった成果は、レーザー駆動陽子線がん治療を始めとする医療分野や基礎科学研究,産業分野などにおける高強度レーザーの幅広い利用に大きく貢献するものと期待されています。