10-1 バックグラウンドとの闘い

−微量核物質の超高感度検出法開発−

図10-3 14MeV中性子直接問いかけ法の測定原理

図10-3 14MeV中性子直接問いかけ法の測定原理

14MeV中性子発生管①から発生した問いかけ中性子は測定体系の減速物質(グラファイト)や測定物自体(コンクリート等)の減速効果により熱中性子②及び③となり、核物質に働き、核分裂④を起こさせ、核分裂中性子⑤を発生させます。そして、その核分裂中性子Dをカドミウムを周囲に張った検出器バンク⑥で検出します。

 

図10-4 測定スペクトル

 

図10-4 測定スペクトル

水色のスペクトルは、核物質(プルトニウム約10mg)が紙ウエスの入ったドラム缶の中心にある場合の測定スペクトルで、核分裂中性子成分(b)が現れています。そしてオレンジ色はバックグラウンド(核物質がない場合)の測定スペクトルです。核物質の量を決定するためには核分裂中性子成分(b)からバックグラウンド(c)を差し引き正味計数を算出します。この場合の検出限界はバックグラウンド(c)の計数の偏差となります。

図10-5 バックグラウンドの改善

拡大図(166KB)

図10-5 バックグラウンドの改善

左図に示すグラファイト減速材を使用した検出体系の測定スペクトルには、加速器中性子成分(a)とバックグラウンド成分(c)が存在します。この原因を追究すると、発生源はグラファイトでした。そこで、モンテカルロ数値計算によって最適材料を探求した結果、ステンレスを用いることで、右図に示すように加速器中性子成分(a)のみでバックグラウンド(c)がほとんど存在しなくなることを見いだしました。

14MeV中性子直接問いかけ法は、核物質を含む原子力廃棄物に外部から中性子を照射し核分裂を起こさせそれを検出する手法であり、短時間で位置感度差がなく、微量の核物質を検出できる特徴を持っています。

14MeV中性子直接問いかけ法の測定原理は図10-3に示すように、問いかけ中性子によって発生する核分裂中性子を測定するものです。まず、14MeV中性子発生管で生まれた問いかけ中性子は測定体系の減速物質(主に従来法)や測定物自体(主に14MeV中性子直接問いかけ法)の減速効果により熱中性子となり、核物質に働きかけ、核分裂を起こさせ中性子を発生させます。次にこの発生した中性子を選択的に検出するために、カドミウムを周囲に張った検出器バンクの中にHe-3検出器を配した検出器システムを使用します。検出器システムは、カドミウムが周囲に張ってあることから、熱中性子は内部に到達することができずに、高速中性子(14MeV中性子及び核分裂中性子)のみが検出されます。更にこの検出された中性子を時間分布により仕分けすることにより核分裂中性子を取り出すことができます。

この検出器システムを用いて核物質がある場合とない場合の測定結果が図10-4に示す時間スペクトルです。測定の対象は、核分裂中性子成分(b)であり、バックグラウンド成分は(c)の成分です。バックグラウンドの厄介な点は、核分裂中性子成分と見分けがつきづらいことです。成分(c)と成分(b)は同じような時間傾きを持つスペクトルであり、分離することはできません。このため、核分裂中性子成分(b)の検出限界はバックグラウンド(c)の偏差によって決定されます。したがって、バックグラウンド(c)をなくすことで検出限界を大幅に改善できることが分かります。

計算機シミュレーションを用いた研究の結果、減速材(反射材)をグラファイトからステンレスに変更すれば、図10-5のようにバックグラウンド(c)はなくなり、検出限界は約2桁程度改善されます。このことは、ウラン廃棄物のクリアランス測定やTRU廃棄物の汚染の有無を判定できる性能を有することとなり、廃棄物の処分コストを削減できることが期待できます。原子力廃棄物の処分において安全を確保し、コストを抑えることは重要な問題です。私たちの研究が廃棄物処分の安全確保,低コスト化に役立つことを願っています。