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図11-3 開発したレーザー駆動による陽子線細胞照射装置
図11-4 レーザー駆動の原理で加速したエネルギー約2MeVの陽子線を、培養状態のヒト肺腺がん細胞に照射した結果
これまで、粒子線がん治療装置には、高周波型の加速器が利用されていますが、近年になり、高強度のレーザーを利用して加速した粒子線(レーザー駆動粒子線)を用いることで、装置の小型化を図る研究が世界各国で進められています。レーザー駆動の原理では、従来の加速器に比べて、より高電流で短い時間幅のパルス状に粒子を加速できます。しかし、このようなレーザー駆動粒子線をがん細胞に照射する研究は、技術的な課題が多く、実現していませんでした。
本研究では、これまで技術的に困難であった、粒子線を安定供給するためのターゲットや粒子線を選別する技術、生きた状態の細胞に真空中で粒子線を照射する手法などの開発に成功し、レーザー駆動粒子線が体内のがん細胞と衝突する状態を再現することができる実験装置(図11-3)を開発しました。この装置を用いると、レーザー駆動の原理によって、従来よりもピーク電流値が7桁高く、パルス時間幅が約1億分の1秒の陽子線を安定的に連続発生させ、エネルギーを選別したあと、これを生きた細胞に照射することができます。今回は、培養状態(in vitro)のヒト由来肺腺がん細胞株(A549)に対してレーザー駆動陽子線を照射することで、放射線損傷の一種である、DNAの2本鎖切断が発生することを実証しました(図11-4)。これは、レーザー駆動陽子線が、従来の加速器による陽子線と同様に、がん治療効果を有することを示唆する結果です。
今後は、この装置を使って生物学的効果に関する基礎データを網羅的に収集することで、高強度・短パルスという特徴を有するレーザー駆動陽子線ならではの治療効果や適応疾患の確立を目指します。
本研究は、文部科学省科学技術振興調整費「『光医療産業バレー』拠点創出」の一環として実施されました。