14-9 高温ガス炉の実用化に向けた技術開発

−原子炉圧力容器の非破壊試験技術−

図14-20 半自動超音波探傷装置

図14-20 半自動超音波探傷装置

無軌道式自動超音波探傷装置が使用できない狭隘部や曲率の大きいドーム部に使用します。

 

図14-21 HTTR原子炉圧力容器の主な溶接線

図14-21 HTTR原子炉圧力容器の主な溶接線

非破壊検査の対象となる溶接線は6箇所ありますが、今回は原子炉圧力容器下部にある(6)の溶接線を対象としました。

HTTRは原子力機構が建設した我が国初の高温ガス炉です。高温ガス炉は、圧力バウンダリの破損による冷却材喪失を想定してもシビアアクシデントに至らない設計が可能な安全性の高い原子炉です。しかし、発電用軽水炉と同等の非破壊検査による原子炉圧力容器の健全性確認は、安全確保上欠くことのできない項目です。

これまで、高温ガス炉の原子炉圧力容器検査の自動化と時間短縮化を目指して日本原子力発電株式会社と共同で無軌道式自動超音波探傷装置を開発してきました。しかし、無軌道式自動超音波探傷装置に高機能化を追求したため大型になった結果、原子力圧力容器胴部以外のスタンドパイプ周辺の狭隘部やドーム部には適用できない問題点がありました。そこで、軌道レールをマグネットで原子炉圧力容器の外壁に取り付けて、任意の箇所を検査可能な半自動超音波探傷装置を開発しました(図14-20)。原子炉圧力容器の検査では検査対象である溶接線に対して、1方向の垂直探傷と2種類の入射角度による上下左右の4方向の計9方向の探傷方法を行うことが義務付けられているため、上記の9方向の超音波信号処理ができるように汎用機器であるデータ処理装置を改良しました。また、検査対象領域のほぼ全域にわたり計測できるよう原子炉圧力容器の曲率にあったマグネット軌道に改良しました。

また、HTTRの原子炉圧力容器の最高使用温度は440℃の高温となるため、軽水炉などと異なり高温でも十分な強度を有する2.25Cr-1Mo鋼を使用しています。そこで、2.25Cr-1Mo鋼の対比試験片を作成し、検出すべき欠陥を正しく評価するための距離振幅特性データを取得するとともに、欠陥位置を精度良く測定するため2.25Cr-1Mo鋼に対する音速の決定などの超音波探傷条件を最適化させました。さらに、炉外モックアップ装置を製作し、モックアップ試験により検査の効率化を図りました。

以上の技術開発の成果により、原子炉圧力容器下部の下鏡ドーム子午線方向溶接線を対象とした非破壊検査を実施(図14-21)した結果、き裂や欠陥の存在を示すエコーは測定されず、その健全性を確認することができました。

半自動超音波探傷装置の開発により、原子炉圧力容器すべての箇所の溶接線を対象とした効率的な超音波探傷試験が可能となり、原子炉圧力容器の非破壊検査技術として確立することができました。