1-4 時間変化する流体と構造との熱的なつながりを解く

−T字合流配管部を対象とした非定常解析−

図1-7 サーマルストライピング現象

図1-7 サーマルストライピング現象

 

図1-8 実験結果(温度分布)との比較

 

図1-8 実験結果(温度分布)との比較

合流点から75mm下流での鉛直方向分布

 

図1-9 混合領域で生じる馬蹄状の渦(鳥瞰図)

図1-9 混合領域で生じる馬蹄状の渦(鳥瞰図)

回転の流れの強さが一定となる面で描画しました。色は流体温度を示します。

私たちは、サーマルストライピング現象の解明及び構造物の健全性評価方法の構築に向け、実験研究及び解析研究を実施しています。

図1-7に、サーマルストライピング現象についてT字管を例に示します。まず、高温の流体と低温の流体が混合する(a)ことで流体の中に温度変動(b)が生じます。この温度変動が流れによって構造物(配管や容器など)表面に伝わると(c)、構造物内部に応力変動(d)が発生します。もととなる流体の温度変動の特性や構造物の性状によっては、構造物表面でのき裂の発生や発達したき裂から流体の漏えいに発展するなどの可能性があり、原子炉内の構造物の健全性を評価する上で重要な物理現象となっています。

最近の計算機能力の飛躍的な発達により、これまで実施困難であったサーマルストライピング現象の大規模解析や長時間の過渡解析(時間を追って計算し、時々刻々と変化する物理データを取得)が可能となりました。そこで、原子炉内の曲がった複雑な形状に対応でき(境界適合座標系の採用)、時間変化する流れ場を効率良く解くことができ(ラージ・エディ・シミュレーション法の採用)、流体と構造との間の熱的なつながりを考慮して流体のみならず構造の中までも解析評価できる数値解析コード(MUGTHES)を開発しています。この解析コードには、流体中の熱の移動と流れを計算する機能と、構造物中の熱の伝わりを計算する機能とがあり、流体と構造との熱的なつながりを考慮して計算することができます。長い時間変化を計算するために、支配方程式の解法を新しく構築し、更に最近の計算機では一般的となっている並列計算を可能にしました。

流体中の熱の移動と流れを計算する機能の検証として行ったT字合流配管部における水流動実験を対象とした解析結果の例を示します。図1-8に示す実験結果(例として温度分布のみ)との比較から、解析結果の妥当性を確認することができました。さらに、図1-9に示すようにサーマルストライピング現象を理解する上で重要と考えられる大きな渦(馬蹄状の渦)構造が混合領域で発生することを明らかにし、混合メカニズムの知見を得ました。

今後は、流体と構造との間の熱的なつながりを扱った実験を対象として解析を行い、総合的な機能の検証及び予測精度の高度化を図るとともに、現在、概念設計が進められているナトリウム冷却高速増殖炉で問題となるサーマルストライピング現象の解析評価を実施する予定です。