図2-5 亀裂の光学的計測装置
図2-6 開口幅計測結果例
図2-7 トレーサー濃度分布
放射性廃棄物地層処分の安全評価は、地下水により放射性物質が処分場から人間の生活環境へ運ばれると想定した地下水シナリオに基づいて行われます。地下水流動や核種移行の評価には、様々な地層や岩石の特徴に応じて適切なモデルが選択されます。花崗岩のように硬く空隙が少ない岩石の場合、地下水は主に岩石中の亀裂や断層などを流れます。このような地層を対象とした評価では、個々の亀裂を一枚の平行平板で近似したモデルが一般に広く用いられます。実際には亀裂は複雑な形状で、地下水流動や核種移行に寄与する場となる亀裂は不均質に分布します。そこで、平行平板モデルを複数組み合わせることで地層中の不均質な移行経路を表現することが可能となります。このように亀裂を平行平板モデルで表現した際には、透水特性や物質移行に寄与する開口幅などのパラメータの代表値をいかに設定するかが課題のひとつとなっています。
そのため、実際に複雑な形状の亀裂の開口幅の分布を計測すると同時に、亀裂中の水の流れを計測する装置(図2-5)を開発しました。これは、単一の亀裂を含む透明のレプリカ試験体と、亀裂中の開口幅の分布と水の流れを光学的に計測する装置で構成されます。レプリカ試験体は、10cm角程度の岩石試料の亀裂の上下面をシリコン樹脂で型取りし、透明の樹脂で複製を作成します。光学的な計測には、一定の強度の光を照射する光源と、レプリカ試験体を亀裂面に垂直に通過した光の強度を観測する高解像度かつ高感度のCCDセンサーを使用します。一般に光の強度は、光が通過する媒体中の光を吸収する能力と媒体の厚さに依存して減少します。亀裂に一定濃度の染料トレーサーを充てんさせて光強度の減衰を計測すると、個々の点の亀裂の開口幅(図2-6)が計測できます。開口幅の分布が計測できれば、染料トレーサーを使って亀裂中の流れを可視化するだけではなく、その濃度分布の経時変化を定量的に計測することができます(図2-7)。
このような亀裂の開口幅分布とトレーサー濃度分布の定量的な実験データは、これまで先行的に実施されてきた数値解析的な研究を検証する貴重なデータのひとつで、このようなデータの公開も行っています。今後は、様々な形状の亀裂を対象にデータの拡充を図る予定です。