2-3 断層が将来放射性廃棄物の処分場に走ったとしたら?

−人工バリアせん断応答特性把握に向けた試験とモデル開発−

図2-8 1/20縮尺規模の人工バリア模型を用いたせん断試験装置

図2-8 1/20縮尺規模の人工バリア模型を用いたせん断試験装置

 

図2-9 せん断試験結果

図2-9 せん断試験結果

 

 

表2-1 実施した人工バリアせん断試験の条件

表2-1 実施した人工バリアせん断試験の条件

 

図2-10 試験結果と解析結果との比較

図2-10 試験結果と解析結果との比較

kは計算に用いた周囲岩盤の透水係数(m/s)を指しています。

我が国の地層処分では、高レベル放射性廃棄物を金属製オーバーパックに封入し、その周囲にベントナイト(粘土)の緩衝材を敷設することによって人工バリアを形成します。オーバーパックは少なくとも1000年間は廃棄物を確実に密封隔離できるよう設計されます。

法律に基づき、処分場は三段階の立地選定プロセスを経て建設されます。現在、国の地層処分研究開発は、その第二段階の地上からの調査(概要調査)に基づく精密調査地区の選定に資することを目的としています。精密調査地区は、概要調査により処分場に影響を与える断層が存在する地区が含まれないように選定されますが、地表では規模の小さい地震を引き起こす断層の痕跡は失われやすく、結果として見落とす可能性があります。このため断層が仮に将来処分場を横切って発生したら、廃棄物を含め人工バリアがどうなるかという懸念が生じます。
私たちは、実際の約1/20縮尺模型を用いた人工バリアせん断試験(図2-8)を通じ、その現象や挙動の解明に取り組んでいます。これまで地表で確認されている断層の頻度から、調査時に見落とす可能性のある断層は、せん断速度1m/s,変位1m(緩衝材厚さの約140%に相当)より小さいものと推定できます。一方、試験装置の機械的な制約からせん断速度は最大0.1m/s、変位は緩衝材厚さの140%までであり、変位は要件を満足するものの、せん断速度は試験できない範囲が生じます。また試験前には緩衝材を水で飽和させる必要があり半年以上を要します。このため試験を効率的に行うことが不可欠となることから、本研究では試験結果をもとにせん断挙動を表現できる数値モデルを併せて用いて確認していくというアプローチを採用しています。

これまで表2-1に示す試験を実施し、いずれのケースでも緩衝材の塑性変形によりオーバーパックは回転するものの破損や変形は見られませんでした(図2-9)。また数値モデルには三次元非線形有限要素法を用いて、オーバーパックは弾性体、緩衝材は弾塑体で表現しました。解析と試験との比較検討から、現在のモデルでは変位が緩衝材厚さの半分(20mm)まで良く一致する結果が得られています(図2-10)。それ以降生じる結果との乖離はせん断面近傍の解析メッシュ表現の限界によるもので、せん断面での接触要素やすべり面の導入などモデルの改良を今後の課題として取り組んでいます。