図2-12 ペレトロン年代測定装置概略図
図2-13 測定試料の調整
図2-14 梓川上流の礫層及び試料採取場所
地震や火山活動などの過去の地質イベントがいつ起こったかを調べるために、放射性核種の放射壊変を利用した年代測定法が使われます。このうち、炭素を使う方法は、宇宙線の作用で窒素から生成される14Cが約5730年の半減期で減少することを利用するもので、現代から数万年前の年代範囲を対象とする年代測定のうち最も精度の高い年代測定法のひとつです。動植物が生きている間は光合成や呼吸を行うため大気中とほぼ同じ割合の炭素同位体(12C,13C,14C)を含みますが、動植物の死後、14Cのみ時間とともに減少していくため、試料中の14C濃度を測定することにより年代値を推定することができます。
東濃地科学センターに設置されている加速器質量分析装置(図2-12)では、1mg程度の微量な炭素試料があれば14Cの原子数を測定することができ、従来用いられてきた14Cの放射能を測定する方法に比べ、必要とする試料がほんの少しで済みます。例えば、地下水を測定する場合、従来は数100Lが必要でしたが、本装置であれば1L程度の試料で同程度の精度の測定ができます。このように加速器の利用により試料採取の負担を軽減することができ、また小さな試料の年代を測定することも可能です。
地層処分において地質環境の将来予測を行う上では、過去の地質イベントの履歴を十分に理解する必要があります。河岸段丘や平野の形成過程,活断層の発達過程などを解明する研究では、堆積物に含まれる1cm3以下の木片や貝殻などに含まれる炭素(図2-13)を測定して数多くの年代値を求めてきました。例えば、長野県の松本〜上高地の梓川沿いに分布する段丘を対象とした研究では、礫層から採取した木材の化石を測定し、この礫層が約4万8千年前に形成されたことが分かりました(図2-14)。この段丘の正確な形成年代は、上高地の形成に関係する梓川上流部の流路変更時期やこの地域周辺の地形発達史を論ずる上での基礎となる情報になります。
加速器質量分析装置を使った14C年代測定は、木片や骨,地下水など、炭素を含む様々な地質試料に適用できます。これからも地質環境の将来予測などに必要な過去の地質イベントの理解を支える技術として活用し、更に10Beなどを用いた年代測定法の開発も行っていく予定です。