2-7 岩盤中の割れ目の空間分布を探る

−地質学的解釈に基づく割れ目密度分布モデリング手法の開発−

図2-17 平均割れ目間隔と陥没構造からの水平距離との関係
図2-17 平均割れ目間隔と陥没構造からの水平距離との関係

ボーリング調査で確認した平均割れ目間隔は、断層からの水平距離に対して正の相関傾向を示すことが分かりました。このことは、断層に近接するほど割れ目間隔が小さくなる(割れ目密度が高くなる)ことを意味しています。

 

図2-18 推定した割れ目密度の空間分布を示す等値線図

図2-18 推定した割れ目密度の空間分布を示す等値線図

重回帰分析法のひとつである傾向面分析の結果、ボーリング地点数と分布位置の偏りから月吉断層からの水平距離に対する相関性は強く表れなかったものの、おおむね作業仮説に調和する割れ目密度分布を等値線図として可視化できました。

岩盤中の割れ目は、岩盤中の地下水の流れや応力分布などの特性に影響を与える要素と考えられており、割れ目の空間分布を把握することは、岩盤特性への理解を深める上で重要です。限られた地点でしか取得できないボーリング調査データから割れ目の空間分布を推定する際には、データが得られていない領域に対し、類似した地質環境に関する既存調査・文献の情報から、地質技術者・研究者の経験的解釈によりデータを補うことがあります。しかし、経験的解釈の確からしさは、技術者・研究者の知識や技量に大きく依存し、一意性に欠けるケースが少なくありません。

本研究では、東濃地域を事例として、割れ目の密度と経験的解釈に基づき地質図上に記された地質構造(月吉断層,断層を伴う陥没構造)との関連性に着目し、割れ目密度分布の客観的な推定手法について検討しました。まず、作業仮説として、割れ目密度分布が地質構造分布に影響を受けていることを前提として、(1)地質構造に近いほど割れ目密度が高い,(2)複数の地質構造の接点に近いほど割れ目密度が高い,の二点を設定しました。次に、作業仮説を確かめるために、割れ目密度の指標として、ボーリング孔ごとの割れ目分布から統計学的に算定した平均割れ目間隔を採用し、各孔から地質構造までの水平距離との関係性を検討しました。

検討の結果、各孔の平均割れ目間隔と地質構造からの水平距離との間には正の相関が見られ(図2-17)、作業仮説の(1)を支持する結果が得られました。また、月吉断層と陥没構造との接点付近に位置するボーリング孔(MIU-1〜3)の平均割れ目間隔が他孔より小さいことは作業仮説の(2)を支持し、地質構造分布に応じて割れ目密度が不均質に分布していることを示しています。このような割れ目密度の空間的相関構造は、一次多項式関数による傾向面(trend surface)として近似し、幾何計算により算出した任意点における地質構造からの水平距離を近似関数に入力することで、任意点に平均割れ目間隔を割り当て、経験的解釈を反映した割れ目密度の空間分布を等値線図として出力することができました(図2-18)。

本研究の成果は、今まで経験的解釈により主観的・一意的に判断されてきた地質現象を客観的に表現し得ることを示唆しています。したがって、空間上の限られたデータから割れ目密度を始めとする岩盤特性の不均質分布を推定する際に有効な一手法と考えられます。