4-5 金属酸化物が電子線照射下で活性触媒に変身!

−電子線照射ガンマアルミナによる有機物の酸化分解促進効果−

図4-11 (a)触媒存在下電子線照射システム(外観)、(b)照射容器の内部図

図4-11 (a)触媒存在下電子線照射システム(外観)、(b)照射容器の内部図

このシステムは、電子発生装置,照射容器/触媒及びガス分析装置で構成されます。有機物を含む空気は、初めに電子線照射されその後触媒層を通過します。電子が届く距離は電子発生装置から下方向27mmまでの範囲であるため、触媒の位置を7,17,27及び47mmの4点に段階的に変化させることにより、電子エネルギーの50%を触媒に与える場合から、全く与えない場合までの条件を調節できます。

 

図4-12 50ppmのキシレンを含む空気に、線量10kGyの電子線照射と異なる設置位置におけるアルミナ層を組み合わせた場合のCO2及びCO濃度

図4-12 50ppmのキシレンを含む空気に、線量10kGyの電子線照射と異なる設置位置におけるアルミナ層を組み合わせた場合のCO2及びCO濃度

電子線照射だけの場合のCO2とCO濃度は、それぞれ28.9と38.5ppmです。有害なCO生成を抑えてCO2の生成量を大きくするためには、アルミナ層を7mmの位置、つまりエネルギーの高い電子が届く位置に設置することにより達成できることが分かりました。

私たちは、光化学スモッグの原因物質である有機物の排出量を減らすため、塗装工場などから排出される有機物を、電子線照射で効率良く二酸化炭素(CO2)まで酸化分解する技術の開発を進めています。この電子線照射技術は、エネルギーの高い電子により空気成分の窒素や酸素などを活性化し、この活性分子などの攻撃により有機物を酸化分解するものです。現在、有害な一酸化炭素(CO)を生成させずに有機物をCO2だけに酸化分解するため、この照射技術に光触媒である二酸化チタンなどの触媒材料を組み合わせた手法の開発を行っています。この研究において、光などの外部エネルギーを利用しなくても、電子や活性分子などで触媒を活性化できること、更に貴金属触媒の基材として用いられているガンマアルミナが、電子線照射との組み合わせで特異的な効果を有することが分かりました。

本研究では、初めに電子線照射における複雑な触媒上の酸化反応を個別に定量するため、電子が届く場所(照射空間)から電子が届かない場所(非照射空間)まで触媒位置を段階的に変えることができる電子線照射システムを開発しました(図4-11)。このシステムを用いて大気への排出量の多いキシレンの酸化分解を指標として、ガンマアルミナが与える効果について調べた結果、以下のことが明らかになりました。

(1)電子線照射だけの場合に比べてアルミナ層を組み合わせた場合はCO2生成量が増加

(2)もとの有機物ではなく、この有機物が電子線照射で部分的に酸化された付着性の高い有機物が酸化

(3)ガス空間で生じる反応を邪魔しても、照射空間にアルミナ層を設置することによりCOの生成量を減らし、同時にCO2の生成量を向上(図4-12)

これまでの研究から、二酸化チタンなどの触媒を照射空間に設置すると、ガス空間の反応を邪魔するためその分だけCO2生成量が低下します。しかし、アルミナを設置した場合このような現象は観察されず、逆にCO2の生成量が増加するのは、イオン化されにくく化学的に安定な材料であるアルミナが、高いエネルギーの電子などによりイオン化や活性化され、この活性な場所が付着性の高い有機物を選択的にCO2に酸化したためと考えられます。

今回得られた知見は、有害な有機物の酸化分解するための電子線照射技術だけでなく、今後、世界的規模での資源の枯渇が問題となる貴金属を必要としない触媒の開発にも大きく貢献できると考えています。