図5-14 TLDの外観
図5-15 測定結果
JCO臨界事故が1999年秋に発生し重篤な放射線被ばくによって2名の作業員が亡くなられたことは、未だ記憶に新しいところです。このような事故は二度と起きてはなりません。しかし、万が一の事態に備えて、事故の影響を評価する技術や対処する方法の技術開発は必要です。
IAEAでは、臨界事故の強い放射線による傷害に対処する技術的な指針として、特に線量測定について目標を掲げています。その目的は、
・重篤な被ばくをした人に対して適切な医療処置を施すため
・周辺住民に十分な情報提供を行うため
・有為な被ばくをしていない人に安心してもらうため
とされています。これを達成するために、技術的には、
・線量は人体への吸収線量などで測定されること
・100mGyから10Gyの線量が測定できること
・事故後48時間までに50%以内の不確かさで総線量を明らかにすること、1週間で中性子線とγ線に分けて25%以内の不確かさで線量を明らかにすること
を求めています。
この技術的な目標が達成できることを示すために、まず、既に広く使われている線量測定の方法を検討し、中性子線量の簡便な測定に適した熱ルミネッセンス線量計(TLD)(図5-14)を用いることにしました。また、この線量計に臨界事故と同様の強い放射線を照射するため、過渡臨界実験装置(TRACY)で実験を行いました。TLDを置くTRACY炉心からの距離を変えたり、TRACY炉心に水反射体を取り付けて漏えいしてくる中性子の量を減らしたりして、照射する線量を変化させました。照射した線量を正しく把握するために、ほかの種類の線量計を併用するとともにコンピュータを用いたシミュレーション計算も行っています。また、実験を行ったあと、実質的に48時間以内に測定結果が得られることも確認しました。TLDは、本来、吸収線量ではなく線量当量を測定する目的のものですが、これらの線量同士で換算する係数をコンピュータで計算する手法も確立できました。
これらの手順を経てTLDによって測定された中性子線量を図5-15に示します。測定結果の不確かさは25%以内に収まっており、IAEAの要求を満足し、かつより迅速に中性子線量が測定できることが分かりました。
今回照射した放射線の強さや性質は臨界事故をよく模擬したものとなっています。しかし、このようなTLDを用いた測定手法が実際の核燃料施設においても適用可能なものか、実際の臨界事故の厳しい状況下でもTLDを適切に取り扱うことができるかなど、更に検討を行い実用に供したいと考えます。