5-7 海岸近くの放射性廃棄物処分場の安全性を探る

−海水系地下水との化学反応を伴う物質移行モデルの開発−

図5-16 変質実験による二次鉱物生成モデルの検証

図5-16 変質実験による二次鉱物生成モデルの検証

降水系地下水と海水系地下水によるセメントの変質を模擬するため、セメント粒を繰り返し脱イオン水と人工海水に浸漬させました。液固比とはセメント1kg当たりに浸漬させた液体の体積を表す値で、値が大きいほどたくさんの地下水と長い時間接触したことが模擬されています。二本の実線は、開発した二次鉱物生成モデルを使って計算した結果で、それぞれ実験結果と良く一致していることが分かります。

 

図5-17 人工バリアシステムの透水係数変化の解析評価

図5-17 人工バリアシステムの透水係数変化の解析評価

開発した二次鉱物生成モデルを使用して、(a)降水系地下水と(b)海水系地下水の中における、セメントと接したベントナイトの1万年間の透水係数の変化を計算した結果です。温度により、透水係数の変化の様子が大きく異なることが分かりました。また、温度による透水係数の変化の方向が、降水系地下水と海水系地下水とでは、生成する鉱物の種類が変わることなどの理由によって、逆になることが分かりました。

高レベル放射性廃棄物(HLW)の処分は、安定な岩盤中に建設した処分場に、ガラス固化体を鉄の容器で密封した廃棄体を、周囲を粘土の一種のベントナイトで覆い埋設する方法が考えられています。HLWには放射能が減衰するのに数万年以上かかる放射性核種が含まれるので、地下水が廃棄体に接触するのを遅らせるベントナイトの閉じ込め性能が、長期間でどのように変化するかを知る必要があります。

処分場で使用されるセメントは地下水と反応して地下水を高アルカリ性にします。ベントナイトは高アルカリ性になると、主要な鉱物のモンモリロナイトが溶解します。モンモリロナイトの含有率は、ベントナイトの性質に密接に関係しているので、閉じ込め性能の低下を評価するにはこれらの関係を実験的に把握して、モデルを作成することが重要です。これまで私たちは、長期間の水との接触でセメント成分が反応して地下水をアルカリ性にする様子、モンモリロナイトがアルカリ性で溶解する様子などを、実際の処分場と同じ、押し固めたベントナイトで実験し、観察結果に基づいたモデルを提案してきました。

処分場の安全性を探るには、これらのモデルを使って、セメント-ベントナイト-地下水間の化学反応を計算するとともに、化学反応と影響し合うセメントやベントナイト中の物質や水の拡散や透水性も、同時に計算を行います。このような計算手法を使う複雑なモデルでは妥当性を確認することが非常に重要なので、実験の観察結果との比較を重ねてモデルの検証を進めています。

我が国では処分場が海岸の近くに建設される可能性があります。このような場合、地下水に海水の成分が混合していることが考えられます。そこで、私たちは、これまでの知見から、セメント系材料が海水系地下水で変質して生成する可能性のある鉱物データを選定した二次鉱物生成モデルを作成しました。そして、セメントの変質実験を実施して、このモデルを検証しました(図5-16)。

さらに、これらのモデルを用いて、セメントとベントナイトが共存する人工バリアシステムの1万年間にわたる変質を解析しました。計算結果を詳細に検討することで、温度が変質に強く影響すること、地下水中の塩濃度が変質挙動に複雑な影響を与えることなどを見いだしました(図5-17)。これらの知見は、長期間の変質解析における重要な論点となるものです。