5-8 大きなスケールでの地下水の流れをとらえる

−堆積岩地域における広域地下水流動に関する研究−

図5-18 流量観測,水質分析を行った3河川(浦白川,芋原川,梅ヶ瀬川)の位置図

図5-18 流量観測,水質分析を行った3河川(浦白川,芋原川,梅ヶ瀬川)の位置図

河川はそれぞれ大福山から北,北東,東方向に流下しています。

 

図5-19 調査対象地域の三次元的な地下水流動の概念図
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図5-19 調査対象地域の三次元的な地下水流動の概念図

透水性の高い砂優勢互層で構成される大福山で雨水が地下に浸透し、芋原川・梅ヶ瀬川では浅い地層中を流れて比較的早い段階で流出しています。浦白川では、地層の傾きに沿って、深度50〜100m以深まで潜り込んだあと、下流域において砂泥互層中の割れ目などを通って地表に流出している状況が推定できました。

高レベル放射性廃棄物などの地層処分では、地下水流動に伴う人間環境への核種移行を抑制することが安全性を確保する上で重要となります。そのため私たちは、地層処分に係る安全評価のための研究として、広域地下水流動に関する研究を進めています。

数10〜100kmの大きなスケールでの地下水の動きをとらえるためには、涵養域(雨水が地下に浸透する領域)から流出域(地下水が地表に湧き出す領域)までの地下水の大まかな流れの概念を構築し、解析コードなどによる解析によって観測データが合理的に説明できるかどうかを検証する必要があります。

そのため、地下水研究に関連した既存情報が多く、堆積岩が広く分布している房総半島を事例地域として、涵養域から流出域までの河川・井戸などの既存データの調査、涵養域での河川の流量調査と河川水・井戸水・湧水などの水質分析、一般水質(10元素)及び、酸素・水素同位体組成の分析を行い、三次元的な流動概念の構築を進めました(図5-18)。

既存情報を集約し観測データなどの空間的な特徴を整理した結果から、高い透水性を持つ砂岩優勢層で構成される大福山で涵養された地下水は、地層の走向方向である東北東に向かって流動し、芋原川や梅ヶ瀬川流域に比較的早く流出することが分かりました。また、地下水の一部は、傾斜方向である北に向かって深度約100mより深くまで潜り込んだあと、浦白川の中・下流域において低透水性の砂泥互層内の割れ目などを通って流出していることが推定されました(図5-19)。

一般水質(10元素)、水素・酸素同位体組成の分析結果からは、地下水の大部分は大福山において降水が地下にしみこんだものであり、地中の岩石との反応が進んでいないNaCa-HCO3型地下水か、岩石との反応が進んだCa-HCO3型地下水でした。浦白川や梅ヶ瀬川下流において流出している地下水の中には、Ca-HCO3型地下水よりも深部から上昇してくる、岩石との反応がより進んだNa-HCO3型地下水が存在していました。
 これらの結果から、浅所の地下水循環と深部の地下水流動との関係をとらえるためには、水文学的手法(河川を流れる水の量から地下水の流れを推定する方法)と、地球化学的手法(水質や同位体組成から地下水の種類を推定する方法)による総合的な検討が、有効な方法であることが分かりました。

本研究は、経済産業省原子力安全・保安院からの受託研究「地層処分に係る水文地質学的変化による影響に関する調査」(2006年度)の成果の一部です。