図6-7 特異な超伝導を誘起する磁気ゆらぎとして提案されていた二つのモデル(磁気分極モデルと磁気遮へいモデル)
図6-8 USn3の相関長(磁気ゆらぎの及ぶ長さ)の温度依存
超伝導状態では二つの電子が対となり超伝導電子ペアを組みます。このペアを形成するには電子がお互いに引き合う、つまり引力が必要です。従来の超伝導体では、この引力の起源は結晶格子の振動でした。しかしウランやネプツニウムなどを含む超伝導体では、磁気ゆらぎがその起源となっていると考えられてきましたが、その起源は同定されていませんでした。磁気ゆらぎから誘起される特異な超伝導では従来の超伝導に比べて高い超伝導転移温度が期待できるので、その起源の解明は重要な課題です。
図6-7は磁気ゆらぎの起源として提案されていた二つのモデルです。この二つのモデルのうちどちらが適当なのかを明らかにすることが大きな問題でした。そこで私たちは、核磁気共鳴(NMR)法を用いて磁気ゆらぎの起源を同定しました。本研究では、超伝導状態の近傍にあるUSn3という化合物の119Sn核のNMRを温度1Kから300K付近まで測定しました。119Sn核の核磁気モーメントが緩和していく時間は緩和時間と呼ばれます。ここでは緩和時間の温度依存を測定しました。この緩和時間は磁気ゆらぎの強さと相関しています。磁気ゆらぎが強くなるとそのゆらぎが及ぶ範囲が大きくなり、その範囲の大きさを表す“相関長”が長くなります。緩和時間からこの相関長を見積もることができます。図6-8にその結果を示します。実験結果(●)は、磁気分極モデルから予測された値(青線及び緑線)と良く一致します。一方、磁気遮へいモデルからの予想では、相関長は10倍ほど小さくかつ温度依存もないように見積もられ、実験結果を説明できないことも分かりました。この結果は、磁気ゆらぎの起源が磁気分極であることを明確に示しています。
本研究により、ウランやネプツニウムなどの超伝導体では、磁気分極を起源とする磁気ゆらぎが超伝導電子ペアを形成する引力となっていることが分かりました。 室温で超伝導になる高温超伝導物質が見つかれば、リニアモーターへの応用などの大きな社会的インパクトがあり、その開発努力が続けられています。本研究は、その開発の指針として、磁気分極をペア形成する引力に利用することが鍵であることを示唆しています。今後、私たちは、超伝導が磁気分極ゆらぎから誘起される発現機構を様々なアクチノイド化合物について明らかにしていきたいと考えています。