図7-9 腐食試験装置の外観
図7-10 70℃で沸騰している硝酸溶液でのSUS鋼の腐食速度
図7-11 Npによる腐食促進作用の模式図
原子力発電所で発電を行った後の使用済核燃料には、核燃料として使用可能な核燃料物質(UとPu)が残っています。これらを化学的にそれぞれ回収し、更に分離された残りの核分裂生成物を安全に処理する工場を、使用済核燃料再処理工場(再処理工場)と呼びます。我が国には、茨城県東海村と青森県六ヶ所村にあります。石油と同様にウランは限りのある燃料です。再処理工場で使用済核燃料から核燃料物質を回収して再び原子力発電所で利用することは、資源を有効に利用できることから大変重要なことです。
再処理工場では、核燃料物質を回収するために腐食性の強い沸騰した硝酸溶液を使用します。この硝酸溶液には使用済燃料の中にあるPuやルテニウムが溶けて存在しています。これらはステンレス鋼(SUS鋼)を激しく腐食することが分かっていることから、再処理工場ではこのような硝酸溶液でも腐食しにくいSUS鋼(再処理機器用SUS鋼)が使用されています。最近、少量のNpがSUS鋼の腐食を促進することが明らかになってきました。この微量に含まれるNpが腐食を促進する作用について検討しました。試験は核燃料などの放射性物質が取り扱えるホット試験施設である廃棄物安全試験施設(WASTEF)で行いました。試験に用いた腐食試験装置の概略を図7-9に示します。
図7-10は、空気の圧力を下げて70℃で沸騰する状態で硝酸溶液にSUS鋼を入れたときの腐食の進行割合(腐食速度)を示したものです。硝酸濃度は9mol/Lで、Npは約4mmol/Lと少量含有されています。Npが硝酸溶液に含まれているとNpを含まない場合に比べて、腐食速度は約10倍大きくなっていました。この腐食現象を、溶液に含まれる物質が化学反応に与える影響を詳細に検討することのできる電気化学的手法や分光学的な手法を駆使して解析しました。その結果、図7-11に示すように、6価Np(NpO22+)がSUS鋼の溶解を起こし5価Np(NpO2+)に変化した後に、硝酸溶液中で再度6価Npに再酸化されます。このことが繰り返されることが腐食の促進につながると分かりました。このためにNpのような腐食性の高い物質を含有した沸騰硝酸溶液中でも腐食を起こし難い新しいタイプのSUS鋼の開発を進めています。
これらの知見は、今後、本格的に運転が開始される予定の六ヶ所再処理工場の安全な操業のための基礎データとして活用されています。