図7-12 TRU高温化学モジュール
図7-13 ジルコニア固体電解質を用いた電気化学的測定セル
図7-14 Am酸化物の酸素ポテンシャルと酸素不定比組成
現行の核燃料サイクルでは、MAは高レベル放射性廃棄物(HLW)として地層処分されることになっていますが、将来の核燃料サイクルでは、廃棄物処分の負担軽減を目指して、MAを回収し、燃焼させるMAリサイクル技術の開発が期待されています。MAリサイクル技術が完成すれば、放射性毒性が強く、発熱量が大きいMAを、HLWから分離することにより、HLWの長期にわたる潜在的有害度を低減し、処分場の面積を削減できます。ただし、そのためには、MAを原子炉内で効率良く安全に燃焼させることが可能なMA含有燃料の開発が必要です。
新しい酸化物燃料の開発には、燃料の酸素ポテンシャルと酸素不定比組成(O/M)の関係を解明することが必要です。それは、酸化物燃料の照射健全性に影響する被覆管との反応や元素の化学形態が、燃料の酸素ポテンシャルにより支配されており、熱伝導度や融点などの燃料物性が、燃料の酸素不定比組成により大きな影響を受けるためです。しかし、MAを含有した場合、酸化物燃料の酸素ポテンシャルと酸素不定比組成の関係は変化しますが、その変化のメカニズムは未解明でした。その理由には、MAはα線のほか、強いγ線と中性子線を放出するため取扱いが困難であり、取扱いに高い気密性と遮へい能力を持つホットセルが必要であることが挙げられます。
私たちは、原子力科学研究所のNUCEFに「TRU高温化学モジュール」(図7-12)を設置し、電気化学的手法(図7-13)を用いて、MAの主要元素であるアメリシウム(Am)の酸化物の酸素ポテンシャルと酸素不定比組成の関係(図7-14)を評価しました。本研究では、十分なAm取扱い量があり、電気化学的に精度良く酸素不定比組成を制御できるため、高精度なデータを取得でき、Am酸化物の熱力学的性質の変化には系統性があることを明らかにできました。これによりAm含有酸化物燃料の熱的挙動変化が予測でき、MAリサイクルの技術的成立性評価に貢献することが期待されます。
本研究は、東北電力株式会社,東京電力株式会社及び日本原子力発電株式会社との共同研究「酸化物燃料中の超ウラン元素の挙動研究」と、文部科学省からの受託研究「MAリサイクルのための燃料挙動評価に関する共通基盤技術開発」の成果の一部です。