図14-32 国際相互比較測定に参加した青森研究開発センターむつ事務所に設置してあるAMS
図14-33 海水試料からのヨウ素の抽出
図14-34 国際相互比較結果
ヨウ素129(129I)は環境中に極微量に存在する長寿命放射性核種のひとつです。環境試料中の129Iの濃度レベルは非常に低いため高感度な分析法である中性子放射化分析法を用いても129Iを検出することは困難でした。加速器質量分析装置(AMS:Accelerator Mass Spectrometry)の登場により、環境試料中の129Iを高感度で測定することが可能になりました。青森研究開発センターではむつ事務所に設置してあるAMS(図14-32)を129Iも測定できるよう調整し、様々な研究依頼に対応できる体制を整えました。
国際原子力機関海洋環境研究所(IAEA-MEL:International Atomic Energy Agency-Marine Environmental Laboratories)では放射能分析における品質保証や品質管理を目的に認証標準物質(濃度既知の標準物質)を作製していますが、129Iに関する認証標準物質を有していませんでした。このため新たに海水中の129Iの認証標準物質を作製する必要性が生じました。
標準物質を作製するにはできるだけ多数の機関で測定することが望ましいのですが、海水中の129Iを測定できる機関は世界的に見ても少なく、IAEA-MELは地中海の海水を採取し原子力機構を含む8機関に測定を依頼しました。私たちはIAEA-MELから海水試料が到着後、海水試料からヨウ素を抽出し、AMSによる129I測定を3回行いました(図14-33)。この3回の測定結果から平均値及び標準偏差を計算することにより、原子力機構の測定結果(2.28±0.14)×108 atoms/Lが得られました。
IAEA-MELから2009年10月に参加した全機関の測定結果が公表されました。8機関のうち、1機関は棄却検定により除外されたため、7機関の測定結果を図14-34に示します。7機関の測定結果から平均値及び標準偏差は(2.28±0.27)×108 atoms/L(図14-34)と求められました。この海水中の129I濃度が決定したことにより、新たな129Iの認証標準物質を完成することができました。
新たに129Iの認証標準物質が作製できたことは、環境中の129I濃度レベルを正しく把握するだけでなく、129Iを海水循環のトレーサーとして利用するなど、地球化学分野等で大きく貢献できるものと期待されます。