図14-29 イオン液体を媒体としたウラン回収技術の概要
図14-30 UF4に汚染された鋼材のBMIClへの溶解時間と鋼材ウラン濃度及びイオン液体中の鉄濃度の関係(100℃,大気中)
図14-31 UF4を溶解したBMIClにおける電流-電位曲線(80℃,大気中)
核燃料サイクル施設のうち、ウラン濃縮やウラン転換などのウラン取扱施設からは、その操業及び廃止措置によって、内面をウランで汚染された配管類や塔槽類及びウランを含有したスラッジ類などが発生します。これらは含有するウラン量が多いため、ウランを除去・回収することができれば、回収したウランと除染された金属を資源として有効利用できるとともに、処分するウラン廃棄物の量が大幅に削減できます。
この技術開発では環境負荷の少ない環境調和型溶媒(グリーンソルベント)として知られているイオン液体を処理媒体として選択し、ウランにより汚染した金属類をクリアランスレベル(放射性廃棄物として扱う必要のないものを判断するレベル)までウランを除去するとともに、溶解したウランを電解により回収する方法について検討しました。図14-29はプロセスの概要を示しています。イオン液体は、イオンのみで構成される塩で、低融点,不揮発性,高導電性といった性質から、安全かつ高性能な電解質等としての利用が期待されています。
ウラン濃縮施設の金属類は、四フッ化ウラン(UF4)などのウランフッ化物で汚染されているものが多く、UF4で表面汚染した鋼材をイオン液体に100℃で浸漬した結果、イオン液体のうち1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド(BMICl)はUF4について高い溶解能を持つこと、3時間程度の処理により表面汚染した鋼材のウラン濃度は想定されるクリアランスレベルを下回ることが分かりました(図14-30)。
さらに、UF4で表面汚染された鋼材と未汚染の鋼材についてBMIClに浸漬したときの溶液中の鉄濃度についての時間変化を確認したところ、未汚染の鋼材についてはほとんど鉄が溶解しませんが、汚染した鋼材は鉄が溶解することが分かりました。このことから、イオン液体はウラン化合物に腐食された鋼材部分のみを溶解し、余分な鉄の溶解が少なく、二次廃棄物の発生量を少なくしうると予想されます(図14-30)。
また、イオン液体中に溶解したウランの酸化還元挙動について検討した結果、電解によりウラン酸化物として析出・回収しうる可能性を確認しました(図14-31)。
以上の結果からイオン液体BMIClを媒体として、ウラン汚染鋼材からのウランの回収と鋼材の再資源化の見通しを得ることができました。本成果は、ウラン廃棄物処理の有効な一手法として、各ウラン取扱施設への適用が期待されます。