14-6 世界で最も明るく輝くJ-PARC中性子源を実現

−斬新な線源開発と順調な加速器出力の上昇が貢献−

図14-12 J-PARCの1MWパルス核破砕中性子源

図14-12 J-PARCの1MWパルス核破砕中性子源

3GeVのパルス状陽子ビームを水銀ターゲットに入射して核破砕反応により毎秒約1017個の中性子を生成、これを20Kの水素モデレータで減速し、パルス冷中性子ビームとしてユーザーに供給します。

 

図14-13 世界の主要パルス核破砕中性子源の強度比較

図14-13 世界の主要パルス核破砕中性子源の強度比較

パルスあたりの強度は、出力だけではなく、パルスの繰り返し周期や線源の設計にも依存します。J-PARCで1MW定格出力を達成すると、ほかを大きく引き離す中性子強度となる予定です。

中性子には、物質の構造や動きを観測するためのプローブとしての働きがあります。高強度のパルス中性子ビームを利用すれば、物質科学や生命科学等の分野で世界をリードする最先端の研究成果創出や、材料,薬剤等の創成を狙った産業利用への展開が期待されます。そこで私たちは、世界最高強度のパルス中性子ビームを実現しようと、J-PARC物質・生命科学実験施設(MLF)に中性子源(図14-12)の建設を進めてきました。同中性子源では2008年5月に初中性子を発生、同年12月には20kWの陽子ビーム出力でユーザーへのビーム供給運転を開始し、2009年11月以降は出力を120kWに上昇させ運転を行ってきました。

2009年12月10日、出力を300kWまで上昇させ、高強度パルス中性子の発生試験を行いました。中性子強度測定の結果、1パルスあたり水素モデレータから単位立体角に向けて放出される中性子数は5.1×1012個でした。この2009年12月時点で、J-PARCで達成された中性子強度は、世界を代表するパルス核破砕中性子源である米国オークリッジ国立研究所のSNS施設(4.2×1012個)と英国ラザフォード・アップルトン研究所のISIS施設(4.0×1012個)を上回り、世界最高であることを確認しました(図14-13)。さらに、将来J-PARCが定格の1MWに達すると、その中性子強度はSNSの約3倍になる予定です。

J-PARCで世界最高中性子強度を達成した背景には、加速器の出力上昇への絶え間ない努力があります。また、毎秒のパルス数をSNSの60に対し25と低く抑え、1パルスあたりの中性子数を多くする工夫をしました。更に設計段階において、物質中での陽子や中性子の振る舞いを追跡するモンテカルロ法計算コード(現PHITSコード)を開発し、これを駆使して水銀ターゲット,水素モデレータ,反射体等の線源構成機器の材料,寸法,配置について最適化計算を行い、また中性子強度をより高めるモデレータ形状の考案や新しい中性子吸収材(Ag-In-Cd合金)の開発等、ほかにないアイデアを導入した線源開発を行いました。

定格の1MW出力達成には、まだ解決しなければならない課題がいくつか残されています。私たちは、今後ともこれらの課題解決への努力を継続し、揺るぎない世界最高性能を誇るパルス中性子源へと育て上げていきます。