図14-14 ハイブリッド熱化学法のプロセス概要図
図14-15 開発した試験装置の写真
図14-16 水素製造試験結果の一例
地球温暖化,大気汚染の問題や、将来の石油枯渇の懸念もあり、最近、将来のエコ技術として水素エンジンを搭載した自動車や、燃料電池自動車がよく紹介されています。水素は、石油や天然ガス等とは異なり、使用時には全く二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギー源であるため、将来のエネルギー源として期待されています。しかしながら、現在、工業的に水素は、高温下で天然ガスと水蒸気を反応させて作られており、作る段階において二酸化炭素を排出するという問題があります。このため、将来的には、水素を作る段階から二酸化炭素を排出しない水素製造方法を開発する必要があります。
この問題を解決するため、私たちは、高速増殖炉から得られる熱と電気を併用して、水を原料に多量の水素を高効率に製造できる(通常:約30%→本法:約44%)ハイブリッド熱化学法の研究開発を行っています。熱化学法とは、複数の化学反応を組み合わせ、水を化学的に分解する方法ですが、直接、水を電気分解して水素を作る方法に比べ、高い効率と、エネルギー消費量の低減が期待できます。私たちは、高速増殖炉を用いて水素製造を行うため、高温ガス炉用として提案された水素製造方法(米国W.H社)に改良を加えました。私たちは、熱を利用するだけでなく電気分解を併用することで、従来約800℃の高温が必要だった硫酸の分解反応を、高速増殖炉の運転温度域(500〜550℃)で実施することを考案し、ハイブリッド熱化学法による水素製造に世界で初めて成功しました。
ハイブリッド熱化学法では、図14-14に示すように、硫酸(H2SO4)を加熱し、三酸化硫黄(SO3)と水蒸気(H2O)に分解し、この三酸化硫黄を電気分解で酸素(O2)と二酸化硫黄(SO2)に分解します(硫酸分解工程)。分解された二酸化硫黄と水蒸気は室温まで冷却され、電気分解により硫酸と水素(H2)が製造されます(硫酸再合成工程)。私たちは、ハイブリッド熱化学法のプロセスを用いて安定的に水素を製造できるかを実証するための試験装置を開発しました(図14-15)。その結果、安定して水素を製造できること(図14-16)、定常運転中に硫酸循環量等に変動を与えても、その安定性が保たれることを確認しました。さらに、実用化に向けて、主要な機器類を金属で製作し、腐食性の高い硫酸環境下での耐久性評価を進めています。