14-8 光ファイバによる高温・高放射線環境下の遠隔検査

−「常陽」における原子炉容器内観察−

 

図14-17 UCS下面観察装置の概要
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図14-17 UCS下面観察装置の概要

UCS下面観察装置は、炉内で先端部をL字型に屈折させることができます。先端部をUCS下面の間隙に挿入し、内蔵しているファイバスコープにより、下面の状況を観察します。

 

図14-18 UCS下面観察結果

図14-18 UCS下面観察結果

UCS下面は六角形状の整流板や制御棒案内管が配置されており、その内側には熱電対が設置されています。写真はファイバスコープにより撮影した画像を合成したものです。

高速炉の原子炉容器内部は極めて高い放射線環境にあるとともに、冷却材であるナトリウムは、原子炉停止時においても高温(約200℃)で管理され、化学的に活性であることから、図14-17(a)に示すように原子炉容器上部には遮へい及び気密性を確保するための回転プラグが設置されています。この原子炉容器内部を観察するためには、観察装置に耐熱性と耐放射線性が求められるとともに、ナトリウムは不透明であるため、ナトリウム液位を下げる必要があるなど、多くの制約があります。

今回、高速実験炉「常陽」では、計測線付実験装置MARICO-2と干渉した可能性のある炉心上部機構(UCS)下面の状態を確認するために、光ファイバ(ファイバスコープ)を用いたUCS下面観察装置を開発しました(図14-17(b))。

上述したように、原子炉容器内は高温・高放射線環境下にあり、接近することができないため、UCS下面観察装置には、耐熱・耐放射線性に優れたファイバスコープを採用し、その操作(昇降,屈折,旋回)は回転プラグ上から遠隔で行うこととしました。UCS下面観察装置は、ナトリウム液位を下げ、回転プラグ上の炉内検査孔を通して原子炉容器内に挿入し、先端部を屈折・旋回させてUCS下面の隙間に挿入します。

ここで、UCS下面の隙間は70mmと非常に狭いため、観察前には、実寸大の模型を使ったモックアップ試験を行い、屈折角度や装置の動作性及び操作手順などを入念に確認しました。また、実際の観察では、1回の観察視野が狭い(直径約40mm)ことから、直径約1mの炉心上部機構下面を細かく分割(57領域)し、領域ごとに先端部の位置を調整した上で、回転プラグを操作してUCSを移動させながら撮影を行い、UCS下面全面にわたる観察映像を取得しました。その後、観察映像から写真(計35,000枚)を打ち出し、貼り合わせることで、UCS下面全域の合成写真を作成しました。図14-18に合成写真の一部を示します。得られた合成写真からUCS下面の冷却材の流れを整えるための整流板(厚さ0.8mm)と燃料集合体出口温度を測定する熱電対の形状が明らかとなりUCS下面の状況が確認できました。

高温・高放射線環境となる炉容器内部を遠隔操作により観察した経験は、今後の高速炉の検査技術の開発において有用な知見となりました。