図14-19 三次元浮動支持方式
図14-20 原子炉運転中の配管変位挙動(測定値)
図14-21 熱変位測定値と解析値の検討結果
高温工学試験研究炉(HTTR)では、原子炉で加熱された最高950℃の1次冷却材を約400℃に冷却したのちに原子炉へ戻します。複雑な変位を示す高温機器・配管に対し、格納容器という限られたスペースの中で、自重を支持し、熱変位に追従し、耐震機能を有する機構が必要となります。
そこで、HTTRでは、1次冷却設備全体をコンパクトにするため、コンスタントハンガ,リジットハンガ等のハンガ類及び油圧防振器等の支持構造物で構成される三次元浮動支持方式を採用しています(図14-19)。本支持方式は、熱膨張等の緩慢な変形挙動に対しては比較的自由な移動を許し、地震等の急激な挙動に対しては油圧防振器で拘束します。
これまで、原子力施設では、三次元浮動支持方式の採用がほとんどなく、さらに、中間熱交換器(IHX)が長尺構造物であることに加え、周辺に設置されている支持構造物が干渉しあうため、高温配管熱変位挙動を適切に予測するための評価手法を開発してきました。従来の評価手法では、支持構造物である油圧防振器の摺動速度を一般プラントでの実績に基づいて考えられた1mm/secでモデル化していました。しかし、HTTRでは、原子炉運転中の温度変化がゆっくりであることから、実際の運転データを検討したところ、約4〜5mm/dayと非常に遅いことを突き止めました。このため、摺動抵抗力が極めて小さくなります。この事実を考慮して解析モデルを改良し、その妥当性について検証しました。
解析では、主冷却設備の機器配管系をはり要素、ハンガ類をバネ要素でモデル化し、油圧防振器の抵抗力をゼロとして、汎用有限要素コードABAQUSを使用しました。油圧防振器の影響が顕著となる水平方向(X軸とY軸方向)変位について、新評価手法による解析結果は測定値を極めて良く再現するようになりました(図14-20,図14-21)。特に、従来の評価手法では、Y軸方向(5)、(6)の変位が測定と逆方向の変位挙動を示していたのに対し、新評価手法では、変位方向を一致させ、変位量の予測精度を約10%まで向上させ、実機の熱変位挙動を適切に再現できる評価手法を確立しました。
これにより、三次元浮動支持された高温機器・配管の熱変位挙動を適切に予測でき、高温ガス炉の技術の高度化に寄与するとともに、将来の高温ガス炉に対しても、三次元浮動支持方式採用の可能性を示すことができました。