図3-9 ITER NBIと高電圧ブッシング
図3-10 試作した実規模大型絶縁体
ITERでは、プラズマ加熱及び電流駆動のため、1MV静電加速器で加速した重水素負イオンビームを中性粒子ビームに変換してプラズマに打ち込む中性粒子ビーム入射(NBI)が用いられます。従来、イオン源と加速器は1MVの高電圧を供給する高圧電源とともに絶縁ガス中に設置されます。しかしながらITER NBIでは、放射線環境のためにイオン源や加速器周囲には絶縁ガスを使用できず、1MVという高電圧を真空中で絶縁する必要がありました。このため、絶縁ガス中から電力及び冷却水を供給する導体や配管を取り出し、1MVを絶縁しつつ真空中のイオン源と加速器につなぎ込む「高電圧ブッシング」(図3-9)が必要となります。高電圧ブッシングは、5段積み重ねた絶縁体で構成されます。内部には高電圧がかかる多数の導体や配管を配置するため、外径1.56m,高さ29cm,厚さ5cmという大型のセラミックリングが絶縁体として必要とされてきました。しかしながら、従来の技術で製作できるセラミックリングは外径1m程度が限界であり、また、このセラミックリングを金属と接合してガスと真空の境界とする接合技術の確立が課題でした。
そこで私たちは、京セラ株式会社と協力して、外径1.56m(世界最大口径)の高純度セラミックリングを製作しました。さらに、日立原町電子工業株式会社と協力 して、このセラミックリングと厚さ3mmのコバール(ニッケル合金)製リングのロウ付け接合に成功しました。
このセラミックリングを用いて、高電圧ブッシングの1段分となる大型絶縁体(図3-10)を試作しました。これまでの原子力機構における加速器開発で培った技術を応用して、セラミックと金属の接合部が起点になる放電を抑制するための電界緩和部品を開発し、絶縁体に組み込み高電圧絶縁試験を行いました。その結果、セラミック1段あたりの定格電圧を20%上回る直流240kVを1時間以上安定に保持することに成功し、ITERの要求性能を世界で初めて達成しました。
今回の成果は、私たちが開発した高電圧絶縁技術の有用性を示すとともに、ITER NBI開発を大きく前進させるものです。また、大型セラミック製作の技術は半導体産業分野に、真空中の絶縁技術は絶縁ガスが不要となる高電圧機器開発に貢献でき、電力業界などへの波及効果も期待されます。