10-3 原子力分野の実験やシミュレーション結果から重要情報を見逃さないためには

−時間と空間の変化を捉える可視化手法の提案−

図10-5 原子力施設の耐震計算結果の可視化・解析

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図10-5 原子力施設の耐震計算結果の可視化・解析

原子力施設に振動が与えられた時に受ける力の変動を解析します。(上)まず、原子力施設の三次元モデルを箱に入れ、どんどん細かく分割していきます。(下)分割したすべての小箱を横に並べ、空間軸を作ります。また、空間軸に垂直に時間軸とり、力の大きさを色に割り当てます。この二次元の画像から地震によって比較的強い力を受ける原子力施設の個所を見つけ出します(右端黄色枠内)。

注意していたのに見逃してしまった、こんな経験は誰にでもあると思います。原子力の分野では、施設の設計・建設,運転,点検等、多くの人と時間がかかわる中で、この見逃しを防ぐことは重要な課題です。私たちは、実験・シミュレーション結果に対して、時間と空間の変化を同時に捉えることで「見逃し」を防止する可視化技術の開発に取り組んでいます。

システム計算科学センターで取り組んだ耐震シミュレーション結果を用いて、私たちが開発している技術を説明します。原子力施設が地震によって振動を受けたとき、施設のどこに力が加わるのかをシミュレーションします。このシミュレーション結果から、地震発生後に「いつ」、原子力施設の「どこで」、地震の影響によって「どんなこと」が起こったのかを調べる必要があります。しかし、これらのことをすべて把握することは難しい作業です。そこで、「いつ、どこで」に相当する時間と空間を1枚の紙の上に広げ、「どんなこと」をその紙の上に描く技術を開発します。

時間と空間を1枚の紙に広げるためには、空間を一つの軸で表現する課題があります。この課題は、三次元空間の各軸を等分化して八つの直方体に分割し、小さな直方体の並びで空間を表現する写像法を立案して解決します。ここで、データの特徴に応じて分割の回数を調整することで、分析の目的に合わせた精度を実現します(図10-5(上))。次に、並べた直方体の下に時間変動を整列し、1枚の紙、つまり二次元画像を作成します。この二次元画像の上に、地震によって原子力施設が受ける力の分布を描くことで、時間・空間双方にかかわる力の分布図ができます(図10-5(下))。

図10-5の二次元画像から、振動によって受ける力が相対的に大きい時間や領域を発見でき、その領域が配管の接続部であることを特定できました。またその部分は地震発生後早い段階で力を受け、その力の大きさは時間とともに変化していることも分かりました。

このように、私たちが開発した技術を用いることで、地震の影響を受けやすい形状や部品を見逃すことなく発見でき、その部分の安全性を強化する等、原子力施設の更なる安全性の確保につなげられます。

本技術は、今回示した原子力施設の耐震シミュレーション結果の解析だけでなく、温度変化、圧力変化等、時空間変化を解析する必要がある様々な実験やシミュレーション結果の解析への利用が期待できます。