1-4 原子炉緊急停止のための操作の有効性を評価する

−「もんじゅ」原子炉トリップのためのアクシデントマネジメント有効性評価−

図1-10 原子炉トリップ遮断器開放失敗AM概要図

図1-10 原子炉トリップ遮断器開放失敗AM概要図

トリップ遮断器開放失敗時には、運転員が制御棒保持電磁石無励磁、トリップ遮断器引き外し開放等のAM操作により、原子炉を安全に自動停止することができます。

 

図1-11 AM操作の猶予時間の解析結果例

図1-11 AM操作の猶予時間の解析結果例

プラント過渡応答解析から除熱源喪失時原子炉トリップ失敗事象の制御棒保持電磁石無励磁のAM操作には約8分の猶予時間があります。

 

表1-1 シミュレータによるAM操作の操作完了時間

シミュレータ訓練の結果得られた操作完了時間はあらかじめATWSになることが既知である訓練と*を付記したブラインドテスト結果の二種類があり、それぞれの平均の差による補正を行いました。

表1-1 シミュレータによるAM操作の操作完了時間

 

 

図1-12 原子炉トリップAMによるATWS発生頻度低減の効果

図1-12 原子炉トリップAMによるATWS発生頻度低減の効果

制御棒挿入失敗はAM操作の猶予時間が短いことから、発生頻度は変わらないが、すべてのATWSで合計すると炉心損傷発生頻度に約50%低減の効果がありAMは有効です。

高速増殖炉「もんじゅ」における原子炉自動トリップ失敗(ATWS)に至る進展(シーケンス)は、原子炉トリップ遮断器開放失敗と制御棒挿入失敗の二つに大別されます。これらのうち原子炉トリップ遮断器開放失敗については、原子炉冷却系の運転が継続されるため、アクシデントマネジメント(AM)を行うための猶予時間が比較的長いことから、AMの効果が期待されます。この場合のAM操作としては、図1-10のとおり、トリップ遮断器の引き外し開放操作,制御棒保持電源の無励磁操作等が整備されています。これらのAM操作が猶予時間内に成功するかどうかを確率論的安全評価(PSA)の手法を用いて推定することにより、定量的にAMの有効性を示すことができます。

この評価方法においては、まず、「もんじゅ」のプラント応答について最適評価コードであるSuper-COPDコードによるプラント過渡応答解析に基づいて猶予時間の推定を行います。猶予時間は、1次主循環ポンプが健全性を保つことができる条件として、入口ナトリウム温度が650 ℃を超えるまでの時間と仮定しました。また、AM操作としては、中央制御室で実行できることから最も早く行える制御棒保持電磁石の無励磁操作のみを考慮しました。次に、AM操作を実行する運転員が猶予時間内に操作を完了できない確率については、表 1-1に示すシミュレータ訓練から得られる完了時間の記録に基づいて推定します。

これらの方法により評価した結果、除熱源喪失時の原子炉トリップ失敗事象から炉心損傷に至るまでの猶予時間は、図1-11からは約8分となり、不確かさを考慮しても約5分間以上であると推定されます。さらに、表1-1のシミュレータ訓練の結果を変量とした超過確率を算出すると、この5分間に対応する操作失敗確率は、不確かさを考慮しても0.1程度と推定されます。これらの推定結果から、トリップ遮断器開放失敗に対する制御棒保持電磁石の無励磁操作の有効性が分かります。

図1-12に、制御棒挿入失敗の場合も含めた全ATWSシーケンスにおける炉心損傷に至る発生頻度割合を、不確かさを考慮した上限値及び下限値も含めて示します。全ATWSシーケンスについて、不確かさを考慮しても、炉心損傷に至る発生頻度を50%程度減少できることが明らかとなり、信頼性の向上に有効な結果を得ました。